最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
皇帝夫妻が式を挙げる教会は十字のついた雫方の屋根を携えており、スニーク帝国独特の宗教色を表している。
式は最高聖職者の総主教が執りおこない、花婿と花嫁それぞれに冠を戴かせるのが習わしとなっていた。
本堂に出席者が立ち並び見守る中、イヴァンとナタリアは祭壇の聖画の前で葡萄酒を飲み、総主教に導かれて愛を誓う。
本来ならば伝統に則った式では新郎新婦がキスを交わす場面はないのだけれど、イヴァンは主教に指示し特別に誓いのキスの儀式を入れさせた。
何千本もの蝋燭の灯りに囲まれたおごそかな聖堂の中央で、イヴァンはナタリアの両頬に手を添えそっと唇を重ねる。
――『帰る前に、礼拝堂でキスをして! 結婚式みたいに!』
イヴァンの頭によぎるのは、いつかの幼い日にナタリアが無邪気に口にしたわがままだ。
シテビア王国はスニーク帝国と宗教が違うため、幼いナタリアは結婚式で口づけをする夫婦を見て憧れていたのだろう。
そんな遠い日の彼女の憧れを、イヴァンは忘れていなかった。
たとえナタリア自身がその憧れを覚えていなくとも。