最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
『雪姫(スネグーラチカ)』とは、スニーク帝国はじめ北方国に伝わる雪の妖精のことだ。
スニーク帝国だけでなくシテビア王国の宮廷でさえ、ナタリア王女のことを『雪姫』と呼んでいた。
それは白く儚く美しい彼女に対する羨望、そして――〝まるで人間ではない生きもの〟という侮蔑の意味が込められた呼び名だった。
「俺の妻になる女を『雪姫』と呼ぶな。ナタリアは人間だ。何も問題はない。俺がこの腕で抱きしめることも、愛し合い子を成すことも出来る」
イヴァンはそう言って、大臣や諸侯らの反対を押し切りナタリアとの結婚を決めた。
廷臣たちは嘆きのため息を漏らし、口々に噂した。
「この結婚をローベルト様がお許しになるはずがない」、と。
――九年前。早春。
帝都コシカより遠く東、ブールカン山脈のふもとにあるアスケルハノフ家の離宮では、和やかな笑い声が響いていた。
「きゃあ! 停めて、イヴァン! 怖いわ!」
「あははは! ナタリアは臆病だなあ」
「意地悪! 停めてったら!」
離宮の広大な庭を、トナカイの引く一台の小さなソリが駆け回る。羊の毛皮のコートにうずくまるように身を縮めている少女と、快活な笑い声をあげる少年を乗せて。