最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「おはよう。ナタリア」
上半身を起こしたナタリアの顔にかかった髪を、イヴァンは丁寧に指先で払ってくれる。
「あの……私、昨夜……意識が途中でなくなって……その……」
まさか、夫婦の営みの最中に意識がなくなるなんて思いもしなかった。果たしてあれからどうなったのか。自分は妻として初夜の務めを果たせたのだろうか。不安でナタリアは表情を曇らせる。
イヴァンは目を細め彼女の髪をゆるゆると梳いたまま、何も言わなかった。――それが答えだった。
(ああ……! 私は……なんてことを……)
自分ではどうしようもないこととはいえ大きすぎる失態に、ナタリアは申し訳なさと自責の念で顔を覆って嘆きたくなる。
けれどその前に、髪を撫でていたイヴァンの手がナタリアの頬を包んだ。
「気に病むな、お前のせいじゃない。それに俺たちは夫婦になったばかりだ。機会は幾らでもある」
いつも意識を失ってから目覚めると、そこにはイヴァンの悲しそうな顔があった。
彼にそんな表情をさせる自分を恨めしいと思ったことは何回もあるけれど、今日はその比ではない。
「ごめんなさい……」