最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
結婚式にまつわる儀式と祝宴は一ヶ月ほど続き、それが終わるとイヴァンとナタリアは新婚旅行へと発った。
行先は大陸の南西部にあるイルジア半島。イルジアは半島に無数の小国が乱立しており、主にスニーク帝国領、ワールベーク帝国領、教皇圏、自治権を持つ公国に分かれている。
気候は温暖で海に囲まれているため食材も豊富なことから、グルメの地としても非常に名高い。建築、芸術、文化にも優れ歴史も深く、古代帝国の遺跡は世界的にも有名な観光名所だ。
周辺の海上には大小合わせて二十以上の諸島があり、王侯貴族のリゾート地となっている。
スニーク帝国からは直線距離にして二千キロメートル以上。いくつかの国境を越えなくてはならないこともあって、各国の王宮や離宮、司教館などに立ち寄ることになっている。つまりこの旅は新婚旅行と、各国への新皇后のお披露目も兼ねているのだ。
行き帰り併せて七ヶ国を訪れる半年がかりの旅。決して楽な旅ではないが、イヴァンは新婚旅行はイルジアへ行くとずっと以前から決めていた。
――『……私も、見てみたいです……』
四年前、ナタリアが言葉を取り戻したきっかけはイルジア半島の図鑑だった。
図鑑に載っていた古代遺跡の図に、それほどまでに心を揺さぶられたのかもしれない。
そう思うと、どうしてもナタリアをイルジアへ連れていってやりたかった。