番外編 冷徹皇太子の愛され妃
エピソード3
エピソード3


夜明け前に、ウォルフレッドはふと目が覚めた。

耳をすませたが、窓を叩きつけるような水音は聞こえてこない。

夜中まで続いていた雷雨は、どうやらおさまったようだ。



ウォルフレッドは自分の胸にすがりつくようにして寝息を立てているフィラーナの身体を、そっと抱き寄せた。

(落ち着いているようだな)

ホッと息をつく。




結婚、夫婦として共に過ごすようになってから、わかったことがある。

一見、恐れるものなど無さそうなフィラーナが唯一苦手とするもの。それは、雷だ。

雷鳴が響くと、表面上は平静を装っているが、よくよく見れば身体が微かに震えていることがある。

特に夜や夕方など、暗い中での雷には異常に反応し、子供のようにウォルフレッドにぴったりとすがってくる。たぶん、無意識のうちに。



苦手な原因はなんだ、などと、ウォルフレッドは決して尋ねない。

聞かなくても知っている。おそらく雷が鳴る度に、フィラーナの脳裏には、子供の頃の『あの日』の記憶が鮮明によみがえるのだ。兄が事故に遭った、あの日に。


昨晩もフィラーナは、震えていた。

ウォルフレッドは、優しく抱きしめ、『大丈夫だ』と何度も囁いた。

やがてフィラーナは安心したように眠りについた。


ウォルフレッドは、フィラーナの額に優しくキスを落とす。



この世の何からも、絶対にお前を守ってやる。

だから、安心して俺に全てを委ねてくれ。


さらにフィラーナの華奢な身体を抱きしめて、ウォルフレッドは誓うのだった。



番外編【完】


お読みくださり、ありがとうございました!

葉崎あかり
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