番外編 冷徹皇太子の愛され妃
「ポルシナ語は得意だと豪語なさるのなら、きちんと勉強してからおっしゃってくださいませ。今からでも皆さんの前で、間違った箇所を教えて差し上げましょうか?」

冷ややかなフィラーナの言葉と、ご夫人方の軽蔑の眼差しに居たたまれなくなった伯爵令息は、冷や汗を額に浮かべた。

「い、いえ、一から出直して参りますっ……!」

彼は随分慌てて、その場から消え去った。

「皆様、お騒がせして申し訳ありませんでした」

フィラーナが謝罪すると、他のご夫人方はにっこりと微笑んで首を横に振る。

「最初からこうするおつもりで、彼の同席をお許しになったんですか?」

隣に座るバルフォア公爵夫人がフィラーナに問いかけた。

「ええ。彼、社交界でもいい噂は聞きませんもの。嫌な目に遭った女性たちのためにも、これからのためにも、のさばらせてはいけないと思いまして。簡単にボロが出るとは思いませんでしたけど」

フィラーナは小さくため息をついた。

「それに、彼、誰も見ていないと思ったのか、先ほど、わたくしの侍女の身体にさりげなく触ろうとしました。当然の罰ですわ。これだけ人前で恥をかいたのだから、当分出てはこれないでしょう」

なるほど、と皆が頷く。ゆっくりと紅茶のカップに口をつけるフィラーナを見て、さすがはあの皇太子殿下が選んだ女性だわ、とバルフォア公爵夫人は感嘆した。

当然、このことは側近からウォルフレッドにも伝えられた。

「さすがは俺の妻だ」

と、彼は特に怒る様子もなく面白そうに口角を上げると、再び職務に戻った。

「その者の名を後で教えろ」

「御意」

レドリーは返事をしながら、ああ、これで当分その男は陽の目を見れないだろうなぁ、と、ほんの少しだけ同情した。


この話がどこからか宮廷侍女の間に広まり、フィラーナはちょっとした英雄になった。

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