伝わらなかったあの日の想い
思い出
 あれは、10年前のこと。

 文化祭でお化け屋敷をすることになった私たちのクラスは遅くまでその準備をしていた。
机を並べて段ボールで順路を作り、暗幕を張り、小道具や音響を準備し……
やることは山のようにあり、気づけば8時近くなっていた。

 私は真っ暗な道を同じ方向の賢吾と2人で歩いて帰る。

「明日、楽しみだね。」

「ああ。」

疲れてるのか、いつもより口数の少ない賢吾。

「賢吾のフランケン、サイズ的に、めっちゃ
はまり役だもん。
頑張ろうね。」

今日、試しにメイクをして衣装を着せてみたが、身長190㎝近いフランケンは、迫力があり、はまり役だった。

「紗優美の雪女だって、はまり役だと
思うけど?」

そう。
私は雪女の役をする。
色白で黒髪ストレートのロングヘアは、貞子か雪女かで迷った結果、雪女になった。

明日は、登場と同時に霧吹きで氷水を吹きかける。
突然、冷たいものを浴びせられて、客はこちらが驚くほどの悲鳴を上げてくれる。

黒一色のお化け屋敷の中で、そこだけ床に白いバスタオルが敷き詰められているのは、雪をイメージさせると同時に、床が濡れて滑るのを防ぐためだ。

 準備を頑張った私たちは、明日が楽しみで仕方ない。
なのに、賢吾はいつもの明るさがない。
どうしたんだろう。
疲れてるのかな?

 私たちは、賢吾の家へ向かう分岐点に差し掛かった。

「じゃ、また明日ね。」

私がそう言うと、賢吾は、首を振った。

「いや、送ってくよ。」
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