伝わらなかったあの日の想い
「じゃ、俺、今日からここに住むから。」

「は!?
『じゃ』って、全然話繋がってないし。
なんで賢吾がうちに住むのよ!?」

賢吾はもう、車のバックドアを開けて、荷物を下ろそうとしている。

「俺のマンション、来月建て替えで取り
壊されるんだよ。
紗優美んち、二階に部屋余ってただろ?
次のマンション見つかるまで、おいて
くれよ。」

そう、私の家は、いつか私に兄弟ができた時のために、二階に子供部屋を二つ用意してある。
まぁ、希望に反して、兄弟はできなかったけれど。

「だからって、何でうち!?
実家に帰ればいいでしょう?」

賢吾は、大きなキャリーバッグと見覚えのある旅行鞄を下ろした。

「紗優美、知らないの?
うち、兄貴が結婚して、二世帯住宅に改装
されちゃったから、俺の部屋、もう
ないんだよ。
だから、よろしく。」

賢吾はバックドアを閉めると、当然のようにガラガラと鞄を転がして玄関へと向かう。

「だからって、何でうち!?
泊めてくれる友達くらいいるでしょ?」

私がそう尋ねると、それまでのふざけた表情から一転して、真面目な顔で振り返る。

「紗優美今日から1人だろ?
危ないから、一緒にいてやるよ。」

何… それ…

急にそんな顔されても困るよ。

「そんなの、もう子供じゃないんだから、
大丈夫よ。」

「バカ。
子供じゃないから、大丈夫じゃないん
だよ。
それとも、一緒に住んでくれる彼氏でも
いる?」

「それは…… 」

いないけど、いないって言うとまたバカにされそうで言いたくない。
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