伝わらなかったあの日の想い
「ほら、紗優美、鍵開けろよ。」

そう言われて、私は慌てて鍵を開ける。

ん?
あれ?
なんか私、流されてない?

私がそう気づいた時には、賢吾はもう靴を脱いで部屋に上がっていた。

「紗優美、雑巾ある?
鞄のコロコロ、拭きたいんだけど。」

「ああ!
ちょっと待って。」

ふふっ
いい男が、コロコロって。

私は賢吾の傍をすり抜けて、雑巾を取りに行きながら笑みをこぼす。

そう、賢吾は見た目だけなら、すごくかっこいい。

バスケ部だった賢吾は、190㎝近い高身長で、スタイルもいい。
超美魔女のお母さんによく似たイケメンで、高校生の頃、私は賢吾へのラブレターを運ぶ郵便屋さんと化していた。

私は濡らした雑巾を手渡すと、賢吾に聞いた。

「本気でうちに住む気?」

「本気じゃなきゃ、こんな荷物、持って
こないだろ。」

賢吾は、“コロコロ”を拭き終わると、勝手知ったる我が家と言わんばかりに、奥の洗面所へ行き、雑巾を自分で洗う。

「紗優美ぃ、雑巾、どこに干せばいい?」

「ああ、洗濯機の横。」

私は、慌てて、洗面所に向かう。

雑巾を干して、手を洗うと、賢吾が言った。

「紗優美、疲れただろ。
とりあえず、着替えて休め。」

「え、賢吾は?」

「俺は、荷物を片付けて、適当に
くつろいでるから。」

そう言う賢吾に甘えて、私は自分の部屋へ向かう。

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