彼女との距離感
想い
「え・・・横浜支社ですか」

12月に入って。

繁忙期の今、周りはせわしなく動いている。

上司に呼び出されたかと思えば、横浜支社・・・?

「月末の2週間だけヘルプで横浜支社に行ってきてほしいんですって。社長からのご指名」

「はぃ…」

同年代である女性の上司の言葉に頷くことしか出来なかった。

急すぎる…。

どんな顔をして彼女に会えばいいのか、わからない。

でも、これをチャンスだと思えば・・・と感じた。

彼女に再会する運命だと思うなら。

それなら、想いを伝えようって思った。

「ひゃあ、王子久しぶりねー」

12月半ば。

横浜支社に足を踏み入れた。

その瞬間、見たことのある40~50代の女性軍が俺を取り囲む。

顔は覚えているのだが、名前が思い出せない。

ハハハ…と笑って「どうも」と頭を下げる。

「すっかり、都会の男に染まったわねー」

「東京の空気が更に色男にしたのねー」

と、次々によくわからない言葉をかけられる。

笑って胡麻化して。

上司に挨拶を済ませ、ミーティングを済ませ…。

ふと、カッチャンはどこにいるのだろうとフロアを見渡した。

見ると、コピー機の前でぼぉーと立っている若い女の子がいる。

遠目で見たときは、「あ、カッチャンだ」とすぐにわかって。

嬉しくなった。

「久しぶり、カッチャン」

俺が話しかけると、彼女はビクッと身体を震わせた。

「お久しぶりです」

ぺこりと頭を下げる彼女を見て。

違和感を覚えた。

最後に会った時と比べて、頬が痩せこけている…?

「あのさ、カッチャン」

と、カッチャンと喋ろうとしていると。

「おい、福王子。会議だぞー」

と、上司に呼び出された。

せっかくの話すチャンスを失ってしまった。
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