彼女との距離感
最後に会った時は、あまりにもやつれてた。

長い黒髪で、青白い顔色で。

俺の顔を見て(おび)えていた、アヤ。

8年経った彼女は。

どっちかというと、ふっくらとした顔つきで。

顔色が良くて。

髪はパーマをゆるくかけて茶色になってた。

「ホットコーヒーください。あ、アメリカンで」

アヤが店員さんに注文すると。

すぐにこっちを見て、ふふふと笑った。

「シン、変わらなすぎでしょ。年取らないんだね」

「へ?」

「当時から童顔だったけど、ここまでくると魔法にかけられた人みたいだね」

また、アヤが笑う。

懐かしい笑顔だと思った。

「私ね、先月。結婚したの」

「けっこん・・・」

アヤが左手の薬指を見せた。

きらり。

指輪が光っている。

店員さんが、すぐにコーヒーを持ってきた。

アヤはブラックのままコーヒーを飲んだ。

「それでね。シン」

「うん」

アヤはカバンからごそごそと何かを取り出した。

「シンが今まで、振り込んでくれたお金。全額返すわ」

テーブルに置かれたのは、通帳だった。
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