彼女との距離感
アヤと別れてから、半年ほどだったけど。

毎月、少しばかりのお金を彼女の口座に振り込んでいた。

何故、半年ほどだったかと言えば、彼女のお母さんに「もう、お金はいいから」と拒絶されたからだ。

お金を振り込んだからって、どうなるわけじゃないけど。

何かしなきゃいられなかった。

彼女を病気にしてしまったのは。

自分のせいなんだから。

「別に、今更返さなくていいのに・・・」

「駄目だって!」

ピシャリとアヤは俺を見て言った。

「私、結婚して。やっと過去と見切りつけて。落ち着いたの。でも、このシンのお金見ると思い出しちゃうの」

「……」

「だから、返す!」

本当は話たいことが沢山あったはずなのに。

アヤが結婚したと聴いて、何も言葉が出てこない。

加えて、今更お金の話をされても。

一気に疲れる。

「本当は結婚する前に会って返すべきだった。でも、会う勇気がなくて、今頃になっちゃった」

それから、彼女は8年間何をしていたのか語りだした。

俺は、「そう」「うん」「へぇー」と相槌を打った。

彼女との会話がどんどん辛くなるように感じた。

何故だろう…。

ずっと、彼女との再会を願っていたはずなのに。

「もう、行かなきゃ」

一通り、喋り終えると。彼女はスマホを見た。

「なあ、アヤ」

どうしても、訊きたかった質問だ。

「アヤは今、幸せ?」

訊くのが怖い。でも、訊かなきゃ帰れない気がする。

「え、幸せに決まってるでしょ! あれ、シン。もしかして私のことずっと引きずったりしてないよね?」

「え…」

返事に詰まる。

「あのね、やめてよ。私のこと引きずるの。責任感じちゃうでしょうが」

「……」

「シン、もう会うことはないと思うけど。幸せになってよ」

「アヤ…」

「まぁ、シンだったら大丈夫か。カッコイイし、その性格だもん」

「……」

「私は幸せなんだから、いい加減あんたも幸せになりなさいっ!」
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