彼氏のいない週末は~夏の忘れ物
「で、何でこんなことになっているのかしら?」
店に入って早々ママのプライベートルームに拉致られた私は、ただいま訊問の真っ最中です…
「いや、私のことよりさあ、ママお店はいいの?」
「今日は小百合もアズアズもいるし、お客も大していないもの
それよりあんたよ、あんた!なんでそんな真っ黒になってんの!」
ささやかな抵抗を試みたが、ママが許すはずないよね…うん、知ってた
「…連休でハワイに行くっていったでしょう?」
「言ったわね。ついでに南国の太陽なめんじゃないわよって、対策をレクチャーしたはずなんだけど、あれは私の夢だったのかしら?」
「夢じゃないです、ごめんなさい…」
黒い革張りのソファーの上で、私は土下座して謝った
2年ぶりの海外、解放的な空気に流されて、ママの紫外線対策講座をマルっと忘れてしまった
日焼け止めだけで灼熱の陽の下に肌をさらし、某局の女子アナ並みに黒くなって帰国した
会社では皆笑ってくれたが、美に対する探究心が振り切れているママには許されざる事案だったことは想像に難くない
ママは美人だ
本当は男性だけど、見た目には女優はだしの麗しい美女だ
そして男性であることを別に隠してもいない
整った鼻梁と白くきめ細やかな肌、長い睫毛とふんわり緩く巻いている髪は陽の光を透かしたような金色で、婀娜めいた紅い唇との対比が鮮やか
ともすればちぐはぐになるそれらをエメラルドのような碧眼が加わることで、まさしく生きたフランス人形のごとき嫋やかさに変化する
身長も高いがやや細身の体のせいか、中性的でドレスや着物を着てても違和感がない
少なくとも私は今まで生きてきた中で、ママ以上の美人にお目にかかったことはない
言葉遣いも服装も女性仕様だが、その根底は男性で、じゃあなぜと言えば、見た目を自分の武器とするために最適な手段を選んでいるからという、よくわからない理由だった
ただその武器を最大限に生かすため、美に対する研究を怠らない
そして友人に連れてこられた私を何故か気に入ってくれて、なにくれとなく世話してくれる
美容やファッションについて話すときも、噂話のようなそれでなく、男性らしく論理的に話すのでとても分かりやすく興味深い
両親には女性らしくしなさいと怒られてばかりだった私が、美容などに関心を持つようになったのは、ひとえに彼のおかげである
そう、彼は私にとって師匠であり、女性としての恩人なのだ