カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん
☆琴梨side☆


 ビックリした。

 いきなり開都くんが教室に来るんだもん。


 部活の時みたいに話しちゃったけど
 クラスのみんなはビックリしていたよね?

 いつも教室で無表情な私が
 開都くんと笑ったりしていたから。



 開都くんが帰って行ったあと
 自分の席に戻ろうとし時に見た
 クラスのみんなの表情。


 変わったものを見てしまったっていう顔を
 みんながしていた。


 私は人からの
 こういう視線が突き刺さるのが怖くて
 どんどん自分だけの殻に閉じこもったんだった。


 そのあとは
 目立たないように目立たないように、
 教室で自分の存在を薄くして、午後を過ごした。





 ◇◇◇



 やっと午後の授業が終わり。

 私は誰の目にも止まらないように
 コソコソと部活へ向かう。


 図書室のドアをくぐる。

 人なんてめったにいない
 暗い資料コーナーの先にあるドアを開けると
 私の癒しの場所がある。


「琴梨、会いたかった」


 ドアを開けた瞬間に飛びついてきたのは
 3年の部長 翼(つばさ)先輩。


「毎回、毎回、琴梨先輩に抱き着いて。
 しつこい人はいつか嫌われますよ」


「琴梨は私の癒しなんだから。
 開都(かいと)は邪魔しないでよね」


 翼先輩は
 私から一向に離れようとしない。

 
 私をこんなに好き好き言ってくれる
 変わりものの翼先輩。


 腰まであるストレートな髪がサラサラで
 普段は猫のようにサバサバしているが
 私の前では急に甘えモードに突入する
 カワイイ先輩。


 もう気づいているとは思うけど
 翼先輩は女性です。



 翼先輩は私から離れると
 椅子にお尻をしずめた。


「翼先輩
 昨日は大変だったんですからね」


 私はほっぺたに空気を入れプクり。



「今度ケーキをおごってあげるから
 琴梨ちゃん、許して!
 でも琴梨の読み聞かせ、すっごく良かったじゃん。」


「え?」


「客席からそうっと見てたの。
 小学生のママ風に変装してた。
 わからなかったでしょ?」


「な……なんでですか?
 もしかして……
 結城先生の奥様が出産って言うのも
 嘘だったんですか?」


「あ……ああ」


 先生までグル??




「私が人前で話すのが苦手だって
 翼先輩が一番よく
 わかってくれていたんじゃないんですか?」


 私の瞳からは
 涙がポロポロ流れ落ちていく。


 信じていたのに。

 読み聞かせ部のみんなだけは
 私のこと裏切らないって信じていたのに。


 その時、翼先輩が
 私を優しく抱きしめた。


「ごめんね、琴梨。
 琴梨を傷つけるつもりはなかったんだ」


 ヒックヒック。
 
 私は鼻水をすすることしかできない。


「今日で部長の私は引退するでしょ。
 だから琴梨と開都に任せてみようと思ったの。

 琴梨が無理だったら
 私が客席から助けに行くつもりだった。
 でもその必要はなかったね。

 やっぱり琴梨の読み聞かせはすごいよ。
 お客さんを本の世界に誘えるんだから」


「つばさ……先輩……」


「今日で私は引退だけど
 ちょくちょく遊びに来るから。
 だって琴梨に会いたいもん」


「あの、俺もいますけど」


「肝心な時に熱で休むような後輩君は知らな~い」


「部長!ひどい……」


「でもなんで翼先輩は
 読み聞かせ会の後に
 私に声を掛けてくれなかったんですか?」


「なんかさ
 イケメン君とお取込み中だったから」


「そっ、そんなことは……」


「琴梨の邪魔をしちゃ悪いかなって思って。
 最後まで優しい部長だったでしょ、私」


 翼先輩は首をかしげながらウインクすると

「頑張った、偉かった」と

 もう一度、私を抱きしめてくれた。
 
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