カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん

◇◇◇


 部活も終わり
 翼先輩は先に帰宅。


「開都くん、戸締りは大丈夫?」


「俺、部室の鍵を返してくるので
 琴梨先輩は昇降口で待っていてください。
 先に帰らないで下さいよ。」


「フフフ、どうしようかな。」


「琴梨先輩、絶対待っていてくださいね」


 念を押すように私の前で人差し指を振り
 開都くんは先に行ってしまった。



 明日からは
 翼先輩は部活に来ない。

 開都くんと二人だけか。


 背よりも高い資料棚の間を、通り過ぎようとした時だった。


 資料棚にもたれかかって
 本を読んでいる人を
 私の瞳がとらえたのは。



「か……かめい……くん?」


「誰もいない時は
 下の名前で呼ぶ約束は?」



 どうしよう……どうしよう……

 どんな顔で花め……ううん、礼音くんと
 会話していいかがわからないよ。


 だって昨日
 別れ際にあんなことを
 口走っちゃったんだもん。


『礼音くんは……
 どんな女の子が……好きなのかって……』



 思い出すだけで
 顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

 
 でも礼音くんも
 何か様子がおかしいような。

 ずっと下を見つめている。

 落ち着きがなく、体が震えている気がするけど。



「れれっ礼音(れおん)くん……大丈夫?」


「別に、いつもと変わんない」


「もしかして私のこと
 待っていてくれたの?」


「待ってなんかない。  
 たまたま読みたい本が
 この棚にあっただけ」


 何を読んでいたんだろうと本に目をやる。

 美容師関連の本?


 さすがにここの棚には置いてない。

 ここらは
 地元の歴史の資料コーナーだから。


「でも1個だけオマエに伝えたいことはある」



 それって?



「昨日琴梨に聞かれた
 俺の好きなタイプだけど……」


「う……うん」

 
 礼音くんの好きな女性のタイプか。

 知りたい……ものすごく……


 でも……


 きっとこんな地味でボッチの私とは
 かけ離れた人なんだと思うと
 聞くのが怖い自分がいた。


「俺さ……」


「琴梨先輩、まだここにいたんですか?」


「あっ、開都(かいと)くん?」


「もう、帰っちゃったかと思ったじゃないですか。
 あっ俺、なんか邪魔しちゃいました?」


「ぜんぜん。
 資料を探していたら
 八夜さんとたまたま会っただけで。
 ね、八夜さん」


「あ……うん」



 開都くんが現れて
 俺様モードから王子モードに切り替えた
 礼音くん。
 

 教室では全然話せない。

 もう少しだけでいいから
 礼音くんと話していたかったな。

 礼音くんの好きなタイプも気になるし。


 そう思っていると


「開都くんだっけ?
 ごめんね。
 1分だけでいいからさ
 八夜さんを貸してくれない?」


 礼音くんは私の手首をつかんで、
 別の資料棚の前まで連れてきてくれた。


 なに?なに?

 どうして私を誰もいないところに?



「さっきの答え
 まだ琴梨に伝えてなかったから。」


「え?」


「俺、ハチドリみたいな子が好きだ」


 ハチドリ?

 ハチドリって
 昨日私がよんだ絵本のハチドリ?


 意味が分からず
 目をパチパチさせることしかできない。



「だからさ
 琴梨のことが好きだって言ってんの」



 え……

 ええ??




 嘘……だよね?

 礼音くんが
 私なんかを好きになるはずないよね?


 だって私……

 クラスで地味子とかボッチって呼ばれていて……

 こんなにダサくて暗くて……
 


「明日の放課後って琴梨は部活?」


「明日は火曜日だからないけど……」


「俺に付き合ってくれない?
 連れて行きたい場所がある。ダメ?」


「ダメじゃ……ない……けど……」


「学校が終わったら
 星城(せいじょう)公園で待ち合わせな」


 私の頭に温かい手のひらが沈み込む。

 礼音くんは「約束」と残し、図書室から出て行った。



「琴梨先輩?大丈夫ですか?」


 開都くんが私を呼んでいる。


 呼んでくれているのはわかっているのに
 現実とは思えない出来事で
 思考停止状態。

 ロボットみたいに体が固まっている。


 これって……

 夢じゃないよね?!

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