カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん

◇◇◇



 私は今
 開都くんと一緒に家まで帰っているところ。

 
 開都くんの家は私と同じマンション。

 だから部活のある日は
 そのまま一緒に帰っている。


 今隣にいるのは開都くんなのに
 礼音くんが、私の頭の中を占領している。



『俺、ハチドリみたいな子が好きだ』


『だからさ
 琴梨のことが好きだって言ってるの』


 全く予想もしていなかった
 礼音くんの言葉。



 本当に
 私なんかのことを好きなのだろうか?


 そして私は礼音くんのことを
 本気で好きなのだろうか?


 イケメンで
 私とは違ってクラスの人気者の礼音くんに
 ドキドキさせられている
 だけじゃないのか?


 恋愛経験が全くない私には

 自分の気持ちがわからない……




「琴梨先輩ってば」


「え?」


「ちゃんと俺の話、聞いてます?」


 礼音くんのことばかり考えていて
 開都くんが話しかけていることすら
 気づかなかった。


「ごめん、ごめん。
 もう一度言ってくれる?」


「だから、部の活動日を増やしませんか?」


「今は、月、木、金の週3でしょ」


「それを月曜から金曜日まで
 毎日活動するのはどうかなって思って」



 確かに
 毎日読み聞かせの練習をした方が
 読み聞かせのレベルも上がると思う。


「明日から
 学校のある日は毎日部活をやりましょうよ」


 明日……から……?


 私は明日
 学校帰りに公園に行く約束をしたんだ。


 礼音くんが
 私をどこかに連れていきたいと
 言ってくれたから。


 毎日部活があるのは
 いいことだと思うけど。


 明日だけは……

 礼音くんに……

 会いたい……



「部の活動日を増やすのは賛成だよ。
 でも……明日は……ちょっと……」


「そんなに
 礼音先輩に会いたいですか?」


「え?」


「さっき約束していましたよね?」


 開都くんにも聞かれていたんだ。


「会いたいなんてそんなこと、全然ないよ。
 ただ約束しちゃったから」


「じゃあ、俺とも約束をしてください」


「約束って、何を?」


「俺と二人でいるときは
 俺だけのことを考えてください」


「え?」


「気づいていないんですか?」


「ん?」


「本当に気づいていないんですか?」


 「えっと……?」

「初めて琴梨先輩に会ったあの時から俺は
 ずっと琴梨先輩のことが好きですから!」



 開都くんが……

 私のことを……

 好き?



 開都くんの好きな人が私だなんて
 1ミリも思ったことがなかった。


「嘘……だよね?
 私なんて誰かに好きになってもらえる要素
 一つもないよ……」


「俺は琴梨先輩のことが
 かわいくてしかたがないんですけど」


 私のことが
 かわいくてしかたがない?

 そんなふうに思ってくれていたの?



「琴梨先輩を絶対に振りむかせてみせます。
 まだ礼音先輩とは、付き合ったりしないでください」



子犬のように潤んだ瞳で見つめられ
開都くんの瞳から目が離せられない。



「琴梨先輩、またね」


 潤んだ瞳のまま微笑んだ開都くんは
 走って先に帰って行った。

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