カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん

「ここ……だよね……」


 看板を何度も確認して、
 私は勇気を出して美容院のドアを開けた。


「いらっしゃいませ。」


 柔らかい雰囲気の男性が、
 優しく微笑んで迎えてくれた。

 年齢は……30歳くらいかな?


「あの……え……と……」


「琴梨ちゃんね、お待ちしてました。」


「花名くんに言われて……」


「礼音ね、
 今2階に物を取りに行ってもらっているから、
 すぐ来るよ。
 とりあえず、荷物をお預かりします。」


「でも私……
 髪を切るつもりはなくて……」


「いいから。
 とりあえず、この席に座って。」


 私はその美容師さんの
 柔らかい雰囲気に流されるように、
 とりあえず鏡の前の椅子に座った。


 目の前の鏡に映る自分。


 私は、自分の顔を鏡で見ることが大嫌い。


 鏡を見るたびに、
 可愛いクラスメイトと自分を比べてしまう。


 何で私は、
 こんなにかわいくないんだろうって。


「琴梨、お待たせ。」


「礼音くん。
 さっきも言ったけど、
 髪なんて切らなくてもいいよ。

 今のままでいいんだから……
 私は……」


「それ、お前の本心じゃなくない?」


「え?」


「この人さ、陽介さんって言って、
 俺のおじさん。

 女子高生を可愛く変身させたら、
 世界一って言うくらいの凄腕だから、
 何も言わずに切ってもらえって。」


「でも……」


「お前、
 可愛くなりたいって思っているんだろ?」


「そんなことは……」


「琴梨ちゃん、
 騙されたと思って切ってみない?
 もちろんお金は取らないから。」


「そんなの悪いです。」


「無理やり礼音に連れて来られた女子高生から、
 お金なんて取れないよ、俺。

 それに大丈夫だよ。
 このカット代は、
 礼音のバイト代から引いとくから。」


「ちぇ。
 それくらいサービスしてくれてもよくない?」


「ハイハイ。
 琴梨ちゃんのカットは俺に任せて。
 礼音は、外に行って来て。」


「は?
 俺も隣で見てるし。」


「カットに集中できないだろ。

 それに、
 お前にもお願いしたい仕事があるからさ。」


「仕事ってなんだよ。」


「窓の外を見てみ。
 あの子、礼音の知り合いだろ?」



 私もつられて窓の外を見ると、
 この美容院の中をのぞこうと
 頑張っている男の子が……


 って
 開都くんだし……


「うちの美容院は、
 外からは中の様子が見えない
 ガラスにしてあるの。

 礼音は、
 あの男の子の相手でもしていて。」


「わかったよ。
 陽介さん、これだけは守れよ。

 俺の好みの髪型にしろよ。」


 そういうと、
 礼音くんは外に行ってしまった。


 開都くんのことが気になって、
 また窓の外に目をやると……


 ん?


 あれは大丈夫かな?


 礼音くんと開都くんが、
 言い合いをしているような……



「ありゃ、あの二人は大丈夫かね。
 琴梨ちゃん、ちょっと待っていて。
 俺、外に行ってくるから。」


「あ……はい。」


 陽介さんはドアを開けると、
 外の二人に言った。

「あのさ、俺の店の前で騒がないでくれる?
 近所迷惑だから。

 もう二人とも、店の中に入って。」


 陽介さんの言葉に、素直に従う二人。


 開都くんも、
 気まずそうにうつむきながら入ってきた。

< 20 / 77 >

この作品をシェア

pagetop