カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん

「その絵本を読むの？　
　八夜さんが抱きかかえている」


　私は静かにコクリ。


「読む練習はした？」


「子供のころから大好きな本なので暗記してるの……
　部活ではこの1か月
　読み聞かせの練習をしてきたけど……」


「じゃあきっと大丈夫。
　八夜さん、頑張り屋さんだから」


「え？」

　
　私が……頑張り屋？

　

「俺がステージ袖から見守っていてあげるから
　平気でしょ？」



　平気じゃないよ。

　余計、緊張しちゃいそう。

　クラスメイトに私の悲惨な失態現場を
　目撃されちゃいそうで。



「まだ、覚悟は決められない？」


「……うん」


「じゃあこういうのはどうかな？　
　八夜さんがもう無理ってなったら
　俺が代わりに読んであげるよ」


「花名くんがステージに？」


「来てくれた子供たちを
　がっかりさせるわけにはいかないでしょ？」


「……そうだけど」


「でもなるべく八夜さんが頑張って読んでね。
　読んだことない絵本だし。
　読めない漢字があったら俺、ステージで固まっちゃうよ。
　高校生なのに漢字が読めないんだあのお兄さん！
　って、子供たちに笑われちゃうのは恥ずかしいしね」



　テヘっと舌を出し
　子供みたいにオチャメに微笑んだ花名くん。

　私も思わず顔を上げ　
　フフフと笑顔がほころんでしまいました。



「じゃあ
　八夜さんが頑張れるおまじないをしてあげる」
　


　花名くんはカバンの中をガサゴソ。

　取り出したのは
　黒いストーンがちりばめられたヘアピン。



「八夜さんは瞳が綺麗なんだから。
　長い前髪で瞳を隠してるのはもったいない。
　教室で思ってたんだよね」


　そうつぶやくと
　メガネを覆うくらい長い私の前髪をクルっと巻いて　
　ピンで止めてくれた。



「ほら、こっちの方が絶対カワイイ」
　


　私の瞳が……綺麗？

　かかか……かわいい？

　そんなこと誰かに言われたの初めてだよ。



　私の顔は熟したトマトに勝てちゃうくらい
　真っ赤に染まっていると思う。



　恥ずかしすぎ……

　花名くんの顔がまともに見れない……



「その前髪、俺とお揃いだって気づいてる？
　　ピンまで一緒だからね」



　ほんとだ。

　陽キャな王子様と前髪のクルンが一緒なんて。



「俺さ、勉強中とか本を読むときは
　前髪をピンでとめちゃうんだ。
　前髪が長いから邪魔になるし」



　生まれてから一度も彼氏なんていない私。

　男の子と何かがお揃いなんてことは
　もちろん初めてだ。

　それなのに王子様みたいな花名くんと
　お揃いの髪型なんて……



　恋愛経験がない私の心臓が
　猛スピードで飛び跳ねている。

　SOS信号が確実に出ている。

　キュンキュンで意識が遠のいちゃいそう。


「もうすぐ始まる時間だね」


「ひゃっ、ほんとだ」



　胸キュンの過剰摂取で
　気を失いそうになっている場合じゃない。



「八夜さん、ステージ立てそう？」



　いつの間にか読み聞かせの緊張が
　花名くんへのドキドキに変わっていたけれど
　一気に現実に戻ってきた。

　こうなったら私が
　読み聞かせをするしかないもんね！！

　

「ががが……頑張ってくる……」

　

　震える声を吐き出した私。

　唇を噛みしめ、なんとか覚悟を決めた。

　花名くんが来る前の方が
　私の心臓がゆっくり動いていたような
　気がするんだけどな……