カメレオン王子と一人ぼっちの小鳥ちゃん
☆礼音side☆
八夜の奴、本当に大丈夫かよ?
ステージ横。
俺は八夜の読み聞かせを見守っている。
それにしてもなんで俺が
クラスの地味子を励まさないといけないんだよ。
途中で読めなくなっても
俺が出ていくなんて絶対に嫌だし。
そもそも優しい王子様を演じ続けること自体
もう限界なんだよな……
俺の名前は花名 礼音。
星城高校の2年。
今ステージに立っている八夜とは
ただのクラスメイト。
あいつはいつも一人で本を読んでいるし
まともに喋ったことなんて一度もない。
今日だって俺はただ
図書館で本を読んでいただけなんだ。
それなのに司書の山本さんに捕まって。
あいつを励ましてって頼まれたから
しょうがなくここにいるわけで。
八夜の読み聞かせが終わったら
さっさと帰ろう。
俺がそう思っていると
ステージのど真ん中にいる八夜が
ヘッドマイクでお客さんに話し始めた。
「みみ…みなさん……こっ……こんに…ちは……」
予想以上の噛みまくり。
八夜の奴、まともに喋れてないじゃん。
「星城っ高校2年……読み聞かせ部の……
はっ…八夜琴梨です。
今から…私の大好きな本を…読むので…
きき、聞いてください……」
声も小さい。
マイクをつけているのに、後ろの席まで聞こえてない。
これは絶対、途中で本が読めなくなるな。
俺がピンチヒッターで登場ってパターンだ。
なんであの時、俺は言ってしまったんだ。
無理になったら、俺が代わりに絵本を読むなんて。
あぁあ、しょうがない。
助けに行ってやるか。
読み聞かせ会のオープニングから諦めモード突入。
腕を天井に向け伸びを一つ。
あ~あ~と声を出したら
「やりたくない……」とボヤキまでこぼれた。
ステージの上の八夜はガタガタ震えながら
瞳をつぶっている。
握った拳もブルブルで
俺は暗いステージ袖からまぶしいステージに進もうと
足の裏に力を籠める。
その時、八夜が深く深呼吸をした。
「ハチドリと七色のさかな」
スピーカーから流れた凛とした声。
その一瞬で、ステージに降り注ぐ光が
柔らかい輪郭をまとったのがわかる。
いま絵本を読んでいるのって
本当に八夜琴梨だよな?