If・・・~もしもあの時死んでいたら~
ペアリング
金曜日。
今日からの三日間は純平さんから離れない。
ずっとくっついて離れないよ。
だって、来週月曜日から、鹿児島なんだもん。
早すぎるでしょ!
せめて誕生日をお祝いしてもらってからにして欲しかったよ。
出発は九月五日、月曜日。
そして誕生日は九月十日。
鹿児島で記念すべき二十歳の誕生日を迎える事になろうとは。
「清美、愛してる」
「純平さん……」
ベッドの中で甘くささやく純平さん。
彼は、いつも以上に丁寧にキスを落とす。
もしも、彼がキスしてくれた場所に赤いマークが付くとしたら、きっと体のほとんどが赤く染まる。
そのくらい、彼は時間を掛けて全身にキスをしてくれた。
来週から一ヶ月も離れる。
その間に彼の温もりを忘れないように、わたしもしっかりと彼を抱きしめた。
彼のものを受け入れ、二人で果てるまで、今までで一番乱れた。
もう恥ずかしいなんて言っていられないくらい感じた。
出した事の無いような甘い声も自然と出てしまう。
その声に彼の理性も吹き飛ぶ。
純平さん。
愛してる。
わたしの事、もっと愛して。
目が覚めると、隣にいたはずの純平さんがいなかった。
「純平さん?」
「起きた?」
彼は上半身裸のまま、ベランダから海を眺めていた。
何時だろう?
外はまだ真っ暗だった。
「波が静かね」
裸のまま長めのシャツを羽織り、わたしも外に出る。
隣に立ったわたしの肩を抱き寄せてくれた。
「星も綺麗だ」
「本当だ」
真夜中なのだろう。
海沿いの道を走る車もほとんどいなかった。
人の気配も無い。
きっとみんな夢の国だ。
「寝ようか」
「うん」
わたし達はもう一度ベッドに入ると、そのまますぐに眠りに落ちた。
次に目を覚ますと、辺りはすっかり明るくなっていた。
サイドテーブルの時計を見ると、時刻は八時半。
結構寝ちゃったな。
「おはよう」
朝のあいさつを交わし、二人でシャワーを浴びた。
海で泳ごうかと言われたけれど、即答で却下。
やっぱり夜の海しか入れない。
土曜日の朝、純平さんに送ってもらって家に戻る。
持って行く物をまとめる為だ。
明日でも良かったんだけど、最終日はやっぱり彼と過ごしたい。
お母さんも、急な別れに戸惑っている。
生まれてこのかた、ずっと一緒に暮らして来たんだもの。
無理も無いよね。
わたしだって寂しい。
夕方、純平さんがうちに来た。
今日は彼がうちに泊まってくれる。
お父さんはまた一緒に飲めると嬉しそう。
だけど今日は、前みたいに意識不明になってもらっては困る。
まさか自宅で愛し合うわけにはいかないけど、もっと話したいよ。
という事で、二人でわたしの部屋にいる。
ベッドに腰掛け、甘いキス。
今日はこれだけで我慢しないとね。
「林田、元気かな?」
「それがね、部長が言うには彼、変わってしまったんだって」
「どういう事?」
「わたしにもよくわからないの。向こうに行って確かめなくっちゃ」
「何かあったのかな」
日曜日。
夕べ、お父さんと酌み交わしたお酒も残ってない様子の純平さん。
勧めるお父さんを上手く交わしてセーブしてたもんね。
明日持って行く荷物の最終確認をして、純平さんと家を出た。
今日は純平さんのマンションに泊まる。
そこから明日の朝、博多駅まで送ってもらう事になっていた。
出発が、純平さんの出勤前で良かったよ。
「今日はどこ行こうか?」
「ラーメン食べたい」
「おっ、いいね。やっぱり豚骨?」
「もちろん。鹿児島に行ったらしばらく食べられそうにないしね」
「向こうにもあるだろ? 豚骨ラーメン」
「あるかもしれないけど、やっぱり博多のがいい」
「そういうもんかな? よし、それじゃラーメン食べて、買い物にでも行くか」
「うん」
わたし達は、行列の出来るラーメン屋で食事を済ませると、ショッピングモールを手を繋いで一回りする。
「清美、あの店入ろう」
純平さんが指差した店は、ジュエリーショップだった。
「わっ、何か買ってくれるの?」
冗談で言ったわたしに、真面目な顔でうなずく純平さん。
えっ、マジ?
「どれがいい?」
「どれがって言っても、えっと……」
急に言われるとドギマギしてしまう。
これって、どういう意味のプレゼントだろう。
誕生日でも記念日でもない。
プロポーズされたわけでもないし、どういう気持ちで選んだらいいの?
「ペアリングでも買おうか?」
「えっ?」
「ほら、しばらく離れるじゃん。だから、あっちに行って、清美に悪い虫が付かないように」
ああ、そういう意味でしたか。
でも嬉しい。
純平さんと同じものを身につけているだけで、少しは一緒にいる気分になれるね。
「どれがいいかな~」
理由がわかったところで、わたしは遠慮なく好みのデザインを物色していく。
ショーケースの中で輝いているペアリング。
この辺りのはたぶん結婚指輪だね。
今はもっとカジュアルな感じのがいいな。
そしてわたしは、ひとつだけ見ると波のようなデザインだけど、二つを合わせるとハートになるものを選んだ。
そして、女性の方にはダイヤの粒が二つはめ込まれていた。
「いいね~」
試しにつけさせてもらうと、純平さんも気に入った様子。
「それじゃ、これにする」
「オッケー」
「ありがとうございました」
お店の人に見送られ、ショップの紙袋を片手に、わたし達はカフェに入った。
そこで買ったばかりの指輪を取り出した彼は、わたしの手を取り、左の薬指にはめてくれた。
何だか鳥肌が立った。
感動の瞬間。
結婚式で指輪の交換してるみたい。
「似合うよ」
「純平さんもはめてみて」
「ああ」
二人ではめて、互いに見せ合った。
嬉しい。
とっても幸せ。
「いいか。向こうに行ったら絶対外すなよ。男が寄ってきたら、わざとらしく見せるんだぞ」
「そんな事しなくたって、誰も寄って来ないわよ」
「そんな事はない。清美、ますます綺麗になった」
「えっ?」
「ほんとだよ。綺麗になった」
「あ、ありがとう」
あらためて言われると照れてしまう。
実はめぐみにも言われたんだ。
清美、綺麗になったね。
幸せオーラも全開だよって。
自分では何も変わってないと思うんだけど、やっぱり純平さんが魔法を掛けてくれているんだね。
カフェでお茶をした後、夕食の材料を買ってマンションに戻った。
今晩は彼がカルボナーラを作ってくれるそうだ。
「夕食の前に海見に行かないか?」
「うん」
砂浜に降り、波打ち際を歩く。
この海ともしばしの別れ。
次に来る時には、少しは涼しくなってるかな。
わたしは冬の海も好き。
荒々しくて、自然の脅威は感じるけど、頬を切るような風に打たれながらもなぜかそこに留まってしまう。
「鹿児島と言えば、桜島との間に海が見えるだろ。寂しくなったら海を見たらいい。海の水はどこだってつながっているんだから」
マンションに戻ると、さっそく彼は料理を始めた。
パスタを湯がきながら、生野菜を切り始める純平さん。
わたしが手伝うよと言っても、今日は全部自分で作って清美に食べさせたいんだと言って聞かない。
ここは黙ってお言葉に甘える事にして、わたしはベランダから海を眺めて過ごした。
「清美、出来たよ」
「うん、すぐ行く」
テーブルには、カルボナーラとシュリンプサラダ、そして赤ワインが用意されていた。
「清美はぶどうジュースね」
同じ色の飲み物がグラスに注がれる。
これで、アルコール有りと無しなんだから不思議だね。
「それじゃ、しばしの別れを惜しんで、乾杯」
「わたしの門出を祝してにしてよ。元気出ないじゃない」
「そうだね。それじゃ、清美の活躍を期待して乾杯!」
ワイングラスがチリンと鳴った。
今日からの三日間は純平さんから離れない。
ずっとくっついて離れないよ。
だって、来週月曜日から、鹿児島なんだもん。
早すぎるでしょ!
せめて誕生日をお祝いしてもらってからにして欲しかったよ。
出発は九月五日、月曜日。
そして誕生日は九月十日。
鹿児島で記念すべき二十歳の誕生日を迎える事になろうとは。
「清美、愛してる」
「純平さん……」
ベッドの中で甘くささやく純平さん。
彼は、いつも以上に丁寧にキスを落とす。
もしも、彼がキスしてくれた場所に赤いマークが付くとしたら、きっと体のほとんどが赤く染まる。
そのくらい、彼は時間を掛けて全身にキスをしてくれた。
来週から一ヶ月も離れる。
その間に彼の温もりを忘れないように、わたしもしっかりと彼を抱きしめた。
彼のものを受け入れ、二人で果てるまで、今までで一番乱れた。
もう恥ずかしいなんて言っていられないくらい感じた。
出した事の無いような甘い声も自然と出てしまう。
その声に彼の理性も吹き飛ぶ。
純平さん。
愛してる。
わたしの事、もっと愛して。
目が覚めると、隣にいたはずの純平さんがいなかった。
「純平さん?」
「起きた?」
彼は上半身裸のまま、ベランダから海を眺めていた。
何時だろう?
外はまだ真っ暗だった。
「波が静かね」
裸のまま長めのシャツを羽織り、わたしも外に出る。
隣に立ったわたしの肩を抱き寄せてくれた。
「星も綺麗だ」
「本当だ」
真夜中なのだろう。
海沿いの道を走る車もほとんどいなかった。
人の気配も無い。
きっとみんな夢の国だ。
「寝ようか」
「うん」
わたし達はもう一度ベッドに入ると、そのまますぐに眠りに落ちた。
次に目を覚ますと、辺りはすっかり明るくなっていた。
サイドテーブルの時計を見ると、時刻は八時半。
結構寝ちゃったな。
「おはよう」
朝のあいさつを交わし、二人でシャワーを浴びた。
海で泳ごうかと言われたけれど、即答で却下。
やっぱり夜の海しか入れない。
土曜日の朝、純平さんに送ってもらって家に戻る。
持って行く物をまとめる為だ。
明日でも良かったんだけど、最終日はやっぱり彼と過ごしたい。
お母さんも、急な別れに戸惑っている。
生まれてこのかた、ずっと一緒に暮らして来たんだもの。
無理も無いよね。
わたしだって寂しい。
夕方、純平さんがうちに来た。
今日は彼がうちに泊まってくれる。
お父さんはまた一緒に飲めると嬉しそう。
だけど今日は、前みたいに意識不明になってもらっては困る。
まさか自宅で愛し合うわけにはいかないけど、もっと話したいよ。
という事で、二人でわたしの部屋にいる。
ベッドに腰掛け、甘いキス。
今日はこれだけで我慢しないとね。
「林田、元気かな?」
「それがね、部長が言うには彼、変わってしまったんだって」
「どういう事?」
「わたしにもよくわからないの。向こうに行って確かめなくっちゃ」
「何かあったのかな」
日曜日。
夕べ、お父さんと酌み交わしたお酒も残ってない様子の純平さん。
勧めるお父さんを上手く交わしてセーブしてたもんね。
明日持って行く荷物の最終確認をして、純平さんと家を出た。
今日は純平さんのマンションに泊まる。
そこから明日の朝、博多駅まで送ってもらう事になっていた。
出発が、純平さんの出勤前で良かったよ。
「今日はどこ行こうか?」
「ラーメン食べたい」
「おっ、いいね。やっぱり豚骨?」
「もちろん。鹿児島に行ったらしばらく食べられそうにないしね」
「向こうにもあるだろ? 豚骨ラーメン」
「あるかもしれないけど、やっぱり博多のがいい」
「そういうもんかな? よし、それじゃラーメン食べて、買い物にでも行くか」
「うん」
わたし達は、行列の出来るラーメン屋で食事を済ませると、ショッピングモールを手を繋いで一回りする。
「清美、あの店入ろう」
純平さんが指差した店は、ジュエリーショップだった。
「わっ、何か買ってくれるの?」
冗談で言ったわたしに、真面目な顔でうなずく純平さん。
えっ、マジ?
「どれがいい?」
「どれがって言っても、えっと……」
急に言われるとドギマギしてしまう。
これって、どういう意味のプレゼントだろう。
誕生日でも記念日でもない。
プロポーズされたわけでもないし、どういう気持ちで選んだらいいの?
「ペアリングでも買おうか?」
「えっ?」
「ほら、しばらく離れるじゃん。だから、あっちに行って、清美に悪い虫が付かないように」
ああ、そういう意味でしたか。
でも嬉しい。
純平さんと同じものを身につけているだけで、少しは一緒にいる気分になれるね。
「どれがいいかな~」
理由がわかったところで、わたしは遠慮なく好みのデザインを物色していく。
ショーケースの中で輝いているペアリング。
この辺りのはたぶん結婚指輪だね。
今はもっとカジュアルな感じのがいいな。
そしてわたしは、ひとつだけ見ると波のようなデザインだけど、二つを合わせるとハートになるものを選んだ。
そして、女性の方にはダイヤの粒が二つはめ込まれていた。
「いいね~」
試しにつけさせてもらうと、純平さんも気に入った様子。
「それじゃ、これにする」
「オッケー」
「ありがとうございました」
お店の人に見送られ、ショップの紙袋を片手に、わたし達はカフェに入った。
そこで買ったばかりの指輪を取り出した彼は、わたしの手を取り、左の薬指にはめてくれた。
何だか鳥肌が立った。
感動の瞬間。
結婚式で指輪の交換してるみたい。
「似合うよ」
「純平さんもはめてみて」
「ああ」
二人ではめて、互いに見せ合った。
嬉しい。
とっても幸せ。
「いいか。向こうに行ったら絶対外すなよ。男が寄ってきたら、わざとらしく見せるんだぞ」
「そんな事しなくたって、誰も寄って来ないわよ」
「そんな事はない。清美、ますます綺麗になった」
「えっ?」
「ほんとだよ。綺麗になった」
「あ、ありがとう」
あらためて言われると照れてしまう。
実はめぐみにも言われたんだ。
清美、綺麗になったね。
幸せオーラも全開だよって。
自分では何も変わってないと思うんだけど、やっぱり純平さんが魔法を掛けてくれているんだね。
カフェでお茶をした後、夕食の材料を買ってマンションに戻った。
今晩は彼がカルボナーラを作ってくれるそうだ。
「夕食の前に海見に行かないか?」
「うん」
砂浜に降り、波打ち際を歩く。
この海ともしばしの別れ。
次に来る時には、少しは涼しくなってるかな。
わたしは冬の海も好き。
荒々しくて、自然の脅威は感じるけど、頬を切るような風に打たれながらもなぜかそこに留まってしまう。
「鹿児島と言えば、桜島との間に海が見えるだろ。寂しくなったら海を見たらいい。海の水はどこだってつながっているんだから」
マンションに戻ると、さっそく彼は料理を始めた。
パスタを湯がきながら、生野菜を切り始める純平さん。
わたしが手伝うよと言っても、今日は全部自分で作って清美に食べさせたいんだと言って聞かない。
ここは黙ってお言葉に甘える事にして、わたしはベランダから海を眺めて過ごした。
「清美、出来たよ」
「うん、すぐ行く」
テーブルには、カルボナーラとシュリンプサラダ、そして赤ワインが用意されていた。
「清美はぶどうジュースね」
同じ色の飲み物がグラスに注がれる。
これで、アルコール有りと無しなんだから不思議だね。
「それじゃ、しばしの別れを惜しんで、乾杯」
「わたしの門出を祝してにしてよ。元気出ないじゃない」
「そうだね。それじゃ、清美の活躍を期待して乾杯!」
ワイングラスがチリンと鳴った。