If・・・~もしもあの時死んでいたら~
派閥なんて無くしましょう
布団に入って携帯の画面を見たけど、純平さんからのメッセージは無かった。
嫌だったけど、おやすみとだけメッセージを送る。
それでも返事は無かった。
暑くて目が覚めた。
「暑い……」
寝る時三時間タイマーにしていた。
それから朝まで爆睡。
クーラーが切れた部屋はムッとする。
勢いよくカーテンを開けて、窓も全開にした。
朝の空気は夏のそれとは少し違っていた。
それでも午後はまた気温が上がると、素人でもわかるくらいの晴天だった。
今日から通常出勤。
八時五十五分に倉庫に入り、朝礼がある。
そして九時から仕事だ。
携帯をチェックした。
あっ……
純平さんからのメッセージ。
《清美、おはよう。夕べはごめん。だけど、男には気を許すな。すぐに会えない分、心配になる》
何だか素直に返事が出来なくて、そのまま出勤した。
今晩、電話で話そう。
「おはようございます」
パートさんを集めて話をした。
本社では、みんながフォローし合いながら仕事に望んでいる事。
それによって連帯感が生まれ、コミュニケーションも上手く図られている事。
もう少し臨機応変に動いて欲しいという事を伝えた。
「言いたい事はわかるのよ。でもね、十五年働いて、昇給はわずか五十円よ。システムが変わればその為に覚えなおさないといけない。思っている以上に過酷なの。やる気も起きないわ」
一番ベテランの松原さんの意見だ。
確かに本社のパートさんも、時給が少ないと不満を漏らしている。
経理じゃないからいくら貰っているのかは知らないけど、人間関係がいいから、多少給料が少なくても楽しく働けると言っていた。
という事は、ここは林田くんが言っていた派閥というのがあるのが問題なんじゃないかな。
いがみ合ってたらいい仕事は出来ない。
その辺りをどうにか上手くコントロール出来たらいいのに。
「シフト制にしてはどうでしょう。昨日見てたら、皆さんの仕事量に差がありました。忙しい方はずっと忙しいし、手が空いてる人は雑談したりしている。みんなが交代で各ポジションにつけば、公平になると思うんです」
「まあ確かに。わたしも思っていたのよ。誰かさんはいっつも暇そうにしてるって」
「ちょっと、誰かさんってわたしの事?」
「あーはいはい。揉めないで下さい。もう少ししたら鶴田さんも戦力になります」
「まあ、社員が増えればねぇ。わたし達の仕事も余裕が出来て、人の手伝いをしようって気にもなるかもね。今はとにかく、自分の事で精一杯なのよ」
「今は小田さんもいる事だし、もっと効率よく出来る方法を教えてもらってさ、みんな頑張ろうか?」
「そうですね。ちょっと最近ギスギスしてた気がします」
倉庫の中が和やかなムードに包まれた。
一ヶ月の間にわたしが出来る事は全てやって、残った鶴田さんが働きやすい環境を整えよう。
若い子一人じゃ、やっぱり淋しいもんね。
特に異性の林田くんには居心地の悪い所だったんだと思う。
これからは鶴田さんがいるから、少しは気持ちも晴れるんじゃないかな。
「林田くん、ちょっと」
倉庫をうろついていた彼を呼んだ。
今日は昨日よりかは元気みたい。
隠れてどこかに行くという事も無く、気が付けばわたしの見える所にいる。
彼が近づくと、パートさんの顔が嫌なものを見る目に変わった。
同時に林田くんの顔からも、笑顔が消えた。
「林田くんも、シフトに入れさせてもらいます。男性は一人なので、特に重たい物を優先的に処理してもらいたいと思います。皆さん、重たい物を運ぶ時はどんどん彼に頼んで下さい」
「え~でも、この人いっつもいないしね」
「林田くんが本社からこちらに来た時、今のように暗かったですか?」
「……そういえば、最初は元気に動き回っていたかも」
みんな当時の彼を思い出したようだ。
「わたし達が、林田くんのやる気を無くさせてしまったのかもしれないわね」
そう言ったのは、松原さんといがみ合っていた中堅のパートさんだった。
「そうね。女性だけで団結しちゃって、好き勝手させてもらってた面もあるわね」
「そのうち、林田くんには何も頼まなくなって、孤立させてしまったかも」
「ごめんね」
そう言って、謝ってくれるパートさんもいた。
「わたしの知っている林田くんんは、とても働き者で明るい人です。ここへ来て、彼の変貌ぶりに驚きました。また、みんなで頑張りませんか?」
「わかったわ。それじゃみんな、重たい物は彼に頼もう」
「実際問題、林田くんが運んでくれたら、凄く楽になるわ。お願い出来る?」
「もちろんです。皆さん、さぼってすみませんでした」
そう言うと、林田くんは腰を曲げて深々とお辞儀をした。
「では、鶴田さんはまだ全部の仕事に対応出来ないから別メニューにしますが、他の方は平等に働けるように仕事を振り分けて見ますね」
「小田さん、あなたまだ若いのに、しっかりしてるじゃない。頼りになるわ」
「いえそんな。でも、ありがとうございます」
嬉しかった。
わたしがこんなに発言出来るなんて自分でも驚いている。
何とか昔の林田くんに戻って欲しい。
その思いがわたしを突き動かした。
「それでは、明日までにシフトを考えて来ますので、今日まではいつものように頑張って下さい」
「わかりました。それじゃ、持ち場に行きましょう」
そう言って、みんなそれぞれに散らばって行った。
「ねえ二人とも、昨日はかなり酔ってたみたいだったけど、二日酔いになったりしてない?」
「わたしは寝たらアルコール抜けちゃったけど、林田くんはちょっと辛そうね」
「大丈夫。頭痛薬飲んで来たから」
「って事は、頭痛かったんだ」
「ちょっとね。ごねんな、椎名さんを怒らせて」
「気にしないで。別に悪い事はしてないんだもん」
それからわたしは、鶴田さんに新たな仕事をひとつ教えた。
覚えがいいから、こうして一日一つ教えたら、二週間もすればほぼ伝え終わるはず。
あとは、時々ある面倒な仕事を臨機応変に対応してもらって、わたしの任務は終わりかな?
早く覚えたら、一ヶ月いなくて帰れるのかな?
だったらもっとスピードアップするけど。
嫌だったけど、おやすみとだけメッセージを送る。
それでも返事は無かった。
暑くて目が覚めた。
「暑い……」
寝る時三時間タイマーにしていた。
それから朝まで爆睡。
クーラーが切れた部屋はムッとする。
勢いよくカーテンを開けて、窓も全開にした。
朝の空気は夏のそれとは少し違っていた。
それでも午後はまた気温が上がると、素人でもわかるくらいの晴天だった。
今日から通常出勤。
八時五十五分に倉庫に入り、朝礼がある。
そして九時から仕事だ。
携帯をチェックした。
あっ……
純平さんからのメッセージ。
《清美、おはよう。夕べはごめん。だけど、男には気を許すな。すぐに会えない分、心配になる》
何だか素直に返事が出来なくて、そのまま出勤した。
今晩、電話で話そう。
「おはようございます」
パートさんを集めて話をした。
本社では、みんながフォローし合いながら仕事に望んでいる事。
それによって連帯感が生まれ、コミュニケーションも上手く図られている事。
もう少し臨機応変に動いて欲しいという事を伝えた。
「言いたい事はわかるのよ。でもね、十五年働いて、昇給はわずか五十円よ。システムが変わればその為に覚えなおさないといけない。思っている以上に過酷なの。やる気も起きないわ」
一番ベテランの松原さんの意見だ。
確かに本社のパートさんも、時給が少ないと不満を漏らしている。
経理じゃないからいくら貰っているのかは知らないけど、人間関係がいいから、多少給料が少なくても楽しく働けると言っていた。
という事は、ここは林田くんが言っていた派閥というのがあるのが問題なんじゃないかな。
いがみ合ってたらいい仕事は出来ない。
その辺りをどうにか上手くコントロール出来たらいいのに。
「シフト制にしてはどうでしょう。昨日見てたら、皆さんの仕事量に差がありました。忙しい方はずっと忙しいし、手が空いてる人は雑談したりしている。みんなが交代で各ポジションにつけば、公平になると思うんです」
「まあ確かに。わたしも思っていたのよ。誰かさんはいっつも暇そうにしてるって」
「ちょっと、誰かさんってわたしの事?」
「あーはいはい。揉めないで下さい。もう少ししたら鶴田さんも戦力になります」
「まあ、社員が増えればねぇ。わたし達の仕事も余裕が出来て、人の手伝いをしようって気にもなるかもね。今はとにかく、自分の事で精一杯なのよ」
「今は小田さんもいる事だし、もっと効率よく出来る方法を教えてもらってさ、みんな頑張ろうか?」
「そうですね。ちょっと最近ギスギスしてた気がします」
倉庫の中が和やかなムードに包まれた。
一ヶ月の間にわたしが出来る事は全てやって、残った鶴田さんが働きやすい環境を整えよう。
若い子一人じゃ、やっぱり淋しいもんね。
特に異性の林田くんには居心地の悪い所だったんだと思う。
これからは鶴田さんがいるから、少しは気持ちも晴れるんじゃないかな。
「林田くん、ちょっと」
倉庫をうろついていた彼を呼んだ。
今日は昨日よりかは元気みたい。
隠れてどこかに行くという事も無く、気が付けばわたしの見える所にいる。
彼が近づくと、パートさんの顔が嫌なものを見る目に変わった。
同時に林田くんの顔からも、笑顔が消えた。
「林田くんも、シフトに入れさせてもらいます。男性は一人なので、特に重たい物を優先的に処理してもらいたいと思います。皆さん、重たい物を運ぶ時はどんどん彼に頼んで下さい」
「え~でも、この人いっつもいないしね」
「林田くんが本社からこちらに来た時、今のように暗かったですか?」
「……そういえば、最初は元気に動き回っていたかも」
みんな当時の彼を思い出したようだ。
「わたし達が、林田くんのやる気を無くさせてしまったのかもしれないわね」
そう言ったのは、松原さんといがみ合っていた中堅のパートさんだった。
「そうね。女性だけで団結しちゃって、好き勝手させてもらってた面もあるわね」
「そのうち、林田くんには何も頼まなくなって、孤立させてしまったかも」
「ごめんね」
そう言って、謝ってくれるパートさんもいた。
「わたしの知っている林田くんんは、とても働き者で明るい人です。ここへ来て、彼の変貌ぶりに驚きました。また、みんなで頑張りませんか?」
「わかったわ。それじゃみんな、重たい物は彼に頼もう」
「実際問題、林田くんが運んでくれたら、凄く楽になるわ。お願い出来る?」
「もちろんです。皆さん、さぼってすみませんでした」
そう言うと、林田くんは腰を曲げて深々とお辞儀をした。
「では、鶴田さんはまだ全部の仕事に対応出来ないから別メニューにしますが、他の方は平等に働けるように仕事を振り分けて見ますね」
「小田さん、あなたまだ若いのに、しっかりしてるじゃない。頼りになるわ」
「いえそんな。でも、ありがとうございます」
嬉しかった。
わたしがこんなに発言出来るなんて自分でも驚いている。
何とか昔の林田くんに戻って欲しい。
その思いがわたしを突き動かした。
「それでは、明日までにシフトを考えて来ますので、今日まではいつものように頑張って下さい」
「わかりました。それじゃ、持ち場に行きましょう」
そう言って、みんなそれぞれに散らばって行った。
「ねえ二人とも、昨日はかなり酔ってたみたいだったけど、二日酔いになったりしてない?」
「わたしは寝たらアルコール抜けちゃったけど、林田くんはちょっと辛そうね」
「大丈夫。頭痛薬飲んで来たから」
「って事は、頭痛かったんだ」
「ちょっとね。ごねんな、椎名さんを怒らせて」
「気にしないで。別に悪い事はしてないんだもん」
それからわたしは、鶴田さんに新たな仕事をひとつ教えた。
覚えがいいから、こうして一日一つ教えたら、二週間もすればほぼ伝え終わるはず。
あとは、時々ある面倒な仕事を臨機応変に対応してもらって、わたしの任務は終わりかな?
早く覚えたら、一ヶ月いなくて帰れるのかな?
だったらもっとスピードアップするけど。