If・・・~もしもあの時死んでいたら~
サヨナラ純平さん
小鳥のさえずりで目が覚めた。
隣にはまだぐっすり眠っている純平さん。
こうして鹿児島の地で、彼と一緒に眠られるとは思っていなかった。
だけど、午前中の会議が終わったら帰っちゃうんだね。
一緒に帰りたい。
「うん? おはよう。もう起きてたの?」
「うん」
「どうした?」
「わたしも一緒に帰りたいよ」
「そうだな。俺も連れて帰りたい。でもまあ、電話で話せるし、あと少しの辛抱さ。また駅まで迎えに行くから」
「うん」
純平さんの胸に顔をうずめる。
頭の後ろを、ポンポンってしてくれた。
「よし、それじゃ一緒にシャワー浴びよう」
「うん」
朝ごはんを食べ、身支度を済ませて一緒に部屋を出る。
わたしが鍵を閉めていると、鶴田さんの部屋のドアが開いた。
「おはよう、清美ちゃん、あ、おはようございます椎名さん。夕べはご馳走様でした」
「いえいえ。清美と仲良くしてくれてありがとう。最後まで宜しくね」
「こちらこそ、清美ちゃんが優しく的確に教えてくれるから助かってます」
「そんな事無いよ。鶴田さんがわたしのつたない説明でもすぐに理解してくれるお陰だよ」
本当に鶴田さんはもの覚えがいい。
一回教えたらすぐに理解してくれる。
小さなノートにわたしが言った事をさっとメモして、すぐに自分のものにしている。
助かってるのはわたしの方だよ。
「あ、おはようございます。皆さんお揃いで」
「おはよう、林田くん。もう痛みは引いた?」
「ああ、昨日よりだいぶんマシになった」
「良かった」
「それじゃ、行こうか」
純平さんに手を引かれ、階段を下りた。
「朝からラブラブですね」
「手なんか繋いじゃってさ。どう? 美咲ちゃん、俺達も繋ぐ?」
後ろを見ると、林田くんが鶴田さんに手を差し出していた。
「結構です!」
「やっぱり?」
林田くんったら。
でも良かった。
もう心配無いよね?
会社に着くと、純平さんは事務所に消えて行った。
残ったわたし達は倉庫に向かう。
あと五分したら朝礼だ。
「それじゃ、今日は梱包の仕方と納品書の出し方を教えるね」
「はい」
順調に覚えてくれている鶴田さん。
仕事中は真剣な眼差しでON、OFFがしっかり区別出来ている。
「あ、今のとこ、もう一度教えて」
「いいよ。ここはね……」
午前の仕事が終わり、昼休みになった。
ここにもちょっとした食堂がある。
本社に比べたら小さいけど、従業員の数も少ないので十分にくつろぐ事が出来た。
林田くん、鶴田さんと食事をしていると、純平さんがやって来た。
「いたいた」
「会議、終わった?」
「ああ」
「それじゃ、もう帰るの?」
「コーヒー飲んだら帰るよ」
そう言うと、彼はプルタブに指をかけた。
「お昼ごはんは?」
「高速の途中でどこかに寄るよ」
「ここで食べて帰ればいいのに」
「まだ、お腹減ってないし」
コーヒーを飲み終わった純平さんは、みんなに挨拶すると去って行った。
何だかここが鹿児島だという事を忘れてしまう。
ちょっと用事で外出して、夕方にはまた戻って来てくれるような気がした。
「よし、それじゃ午後の仕事に戻りますか」
「そうだね」
大きく背伸びをし、わたし達は自分の居場所に戻った。
午後からも新しい仕事を教える。
順調過ぎて、もう来週には帰れるんじゃないかとさえ思えてくる。
本社にも来春には新入社員が何人か入って来るはず。
これまでわたしは人に仕事を教える立場になるなんて思った事も無かったけれど、こうしてやってみると結構出来るものだ。
こういう機会があったら是非またやってみたい。
どうしたんだろ、わたし。
いつの間にか自分に自信が持てるようになった気がする。
これもみんなのお陰だね。
生きていて良かった。
あたらめて、そう強く思った。
「清美ちゃん、これどう処理したらいいかわからないんだけど?」
「どれ?」
何でも真剣に聞いてくれる鶴田さんに好感が持てた。
女性の転勤はあまりなかったし、ましてや倉庫からどこかに行く人は今のわたし……と言っても期間限定だけど、それ以外は聞いた事が無かった。
鶴田さんと別れるのは正直淋しい。
出来るなら本社に転勤なんて機会があればいいのにとさえ思ってしまう。
めぐみともきっと気が合うと思う。
夕方になり、パートさんは全員帰ってしまった。
残りの仕事はわたし達社員の役目。
と言っても既に戦力になる鶴田さんが来てくれたおかげで、今日は六時過ぎには終われそうだ。
「ねぇ鶴田さん、今日どこか外で食事しない?」
「いいわね~」
「何? どっか行くの?」
「林田くん、どこから出て来たのよ」
倉庫の奥の方で片付けをしていたと思ったら、どこからともなく現れて会話に参加して来た。
こないだまでの暗さはどこへやら。
もうすっかりわたしの知ってる彼に戻っていた。
「飯食うの? 俺も入れてよ」
「それじゃ、林田くんのおごりね?」
「マジか。今金無いんだよなー」
「え~」
「いいじゃん。割り勘で行こうぜ。給料出たらおごってやるからさ」
「本当?」
「ああ。丁度いい。お前の送別会してやるよ」
「やったー」
送別会か。
本当にあっと言う間だね。
仕事が終わった足で、わたし達は近くの中華料理店に入る。
小さなお店だけど、丸い回転テーブルのある店だった。
かと言って高級店という事は無く、価格も至ってリーズナブル。
給料前のわたし達でもお腹一杯食べても心配要らないくらいだった。
「ふぅ。美味しかった」
「本当。もうお腹パンパン」
「ここ、安かったね」
みんな満足して店を出る。
「美咲ちゃん、仕事の覚えいいね」
「そうでもないわよ」
「いやいや、本当に凄いよ」
「鶴田さん、わたしもそう思うよ」
「ありがとう。でもね、わたし前の会社じゃ仕事が出来ない人だったんだ」
「えっ?」
「周りから白い目で見られたり、陰口叩かれたり」
「嘘。信じられない」
「だからね、最初は怖かったのよ。また覚えられなかったらどうしようって。でもね、清美ちゃんの教え方が上手くてさ、わからないところも先回りでこういう事があるけどここはこうしたらいいよってアドバイスしてくれたじゃん。だから凄く安心出来た」
そういえば、わたし、自分の失敗を思い出しながら、こういう事があるから用心して欲しいってところは助言出来たかもしれない。
自らの経験を元に、人には同じミスをして落ち込んで欲しくなくって、一生懸命教えたかもしれない。
そっか。
自分じゃ気が付いて無かったけど、わたし少しは役に立てたんだね。
「鶴田さん、ありがとう」
「お礼を言うのはわたしの方よ」
「ううん。わたし、他の人からあんまり褒められた事が無かったから、いろんな事において自信を持てなかった。でもね、こうして鶴田さんに教えて、感謝されてすごく励みになった」
「清美ちゃん、俺も感謝してる。気力を無くして本来の自分じゃ無くなってた俺を元に戻してくれてありがとな」
「林田くん……」
涙が出て来た。
嬉しい。
「おい、泣くなよ。何ならほら、胸貸すぜ」
「結構です!」
うなだれる林田くん。
その姿を見たら、思わず笑ってしまう。
「何だよ。泣いたり笑ったり、お前忙しいな」
「そうよ。わたしは忙しいのよ」
人生を終わらせようとした過去の自分。
そこで歩みを止めていた分、これからはどんどん前に進んで行こうと決めた。
隣にはまだぐっすり眠っている純平さん。
こうして鹿児島の地で、彼と一緒に眠られるとは思っていなかった。
だけど、午前中の会議が終わったら帰っちゃうんだね。
一緒に帰りたい。
「うん? おはよう。もう起きてたの?」
「うん」
「どうした?」
「わたしも一緒に帰りたいよ」
「そうだな。俺も連れて帰りたい。でもまあ、電話で話せるし、あと少しの辛抱さ。また駅まで迎えに行くから」
「うん」
純平さんの胸に顔をうずめる。
頭の後ろを、ポンポンってしてくれた。
「よし、それじゃ一緒にシャワー浴びよう」
「うん」
朝ごはんを食べ、身支度を済ませて一緒に部屋を出る。
わたしが鍵を閉めていると、鶴田さんの部屋のドアが開いた。
「おはよう、清美ちゃん、あ、おはようございます椎名さん。夕べはご馳走様でした」
「いえいえ。清美と仲良くしてくれてありがとう。最後まで宜しくね」
「こちらこそ、清美ちゃんが優しく的確に教えてくれるから助かってます」
「そんな事無いよ。鶴田さんがわたしのつたない説明でもすぐに理解してくれるお陰だよ」
本当に鶴田さんはもの覚えがいい。
一回教えたらすぐに理解してくれる。
小さなノートにわたしが言った事をさっとメモして、すぐに自分のものにしている。
助かってるのはわたしの方だよ。
「あ、おはようございます。皆さんお揃いで」
「おはよう、林田くん。もう痛みは引いた?」
「ああ、昨日よりだいぶんマシになった」
「良かった」
「それじゃ、行こうか」
純平さんに手を引かれ、階段を下りた。
「朝からラブラブですね」
「手なんか繋いじゃってさ。どう? 美咲ちゃん、俺達も繋ぐ?」
後ろを見ると、林田くんが鶴田さんに手を差し出していた。
「結構です!」
「やっぱり?」
林田くんったら。
でも良かった。
もう心配無いよね?
会社に着くと、純平さんは事務所に消えて行った。
残ったわたし達は倉庫に向かう。
あと五分したら朝礼だ。
「それじゃ、今日は梱包の仕方と納品書の出し方を教えるね」
「はい」
順調に覚えてくれている鶴田さん。
仕事中は真剣な眼差しでON、OFFがしっかり区別出来ている。
「あ、今のとこ、もう一度教えて」
「いいよ。ここはね……」
午前の仕事が終わり、昼休みになった。
ここにもちょっとした食堂がある。
本社に比べたら小さいけど、従業員の数も少ないので十分にくつろぐ事が出来た。
林田くん、鶴田さんと食事をしていると、純平さんがやって来た。
「いたいた」
「会議、終わった?」
「ああ」
「それじゃ、もう帰るの?」
「コーヒー飲んだら帰るよ」
そう言うと、彼はプルタブに指をかけた。
「お昼ごはんは?」
「高速の途中でどこかに寄るよ」
「ここで食べて帰ればいいのに」
「まだ、お腹減ってないし」
コーヒーを飲み終わった純平さんは、みんなに挨拶すると去って行った。
何だかここが鹿児島だという事を忘れてしまう。
ちょっと用事で外出して、夕方にはまた戻って来てくれるような気がした。
「よし、それじゃ午後の仕事に戻りますか」
「そうだね」
大きく背伸びをし、わたし達は自分の居場所に戻った。
午後からも新しい仕事を教える。
順調過ぎて、もう来週には帰れるんじゃないかとさえ思えてくる。
本社にも来春には新入社員が何人か入って来るはず。
これまでわたしは人に仕事を教える立場になるなんて思った事も無かったけれど、こうしてやってみると結構出来るものだ。
こういう機会があったら是非またやってみたい。
どうしたんだろ、わたし。
いつの間にか自分に自信が持てるようになった気がする。
これもみんなのお陰だね。
生きていて良かった。
あたらめて、そう強く思った。
「清美ちゃん、これどう処理したらいいかわからないんだけど?」
「どれ?」
何でも真剣に聞いてくれる鶴田さんに好感が持てた。
女性の転勤はあまりなかったし、ましてや倉庫からどこかに行く人は今のわたし……と言っても期間限定だけど、それ以外は聞いた事が無かった。
鶴田さんと別れるのは正直淋しい。
出来るなら本社に転勤なんて機会があればいいのにとさえ思ってしまう。
めぐみともきっと気が合うと思う。
夕方になり、パートさんは全員帰ってしまった。
残りの仕事はわたし達社員の役目。
と言っても既に戦力になる鶴田さんが来てくれたおかげで、今日は六時過ぎには終われそうだ。
「ねぇ鶴田さん、今日どこか外で食事しない?」
「いいわね~」
「何? どっか行くの?」
「林田くん、どこから出て来たのよ」
倉庫の奥の方で片付けをしていたと思ったら、どこからともなく現れて会話に参加して来た。
こないだまでの暗さはどこへやら。
もうすっかりわたしの知ってる彼に戻っていた。
「飯食うの? 俺も入れてよ」
「それじゃ、林田くんのおごりね?」
「マジか。今金無いんだよなー」
「え~」
「いいじゃん。割り勘で行こうぜ。給料出たらおごってやるからさ」
「本当?」
「ああ。丁度いい。お前の送別会してやるよ」
「やったー」
送別会か。
本当にあっと言う間だね。
仕事が終わった足で、わたし達は近くの中華料理店に入る。
小さなお店だけど、丸い回転テーブルのある店だった。
かと言って高級店という事は無く、価格も至ってリーズナブル。
給料前のわたし達でもお腹一杯食べても心配要らないくらいだった。
「ふぅ。美味しかった」
「本当。もうお腹パンパン」
「ここ、安かったね」
みんな満足して店を出る。
「美咲ちゃん、仕事の覚えいいね」
「そうでもないわよ」
「いやいや、本当に凄いよ」
「鶴田さん、わたしもそう思うよ」
「ありがとう。でもね、わたし前の会社じゃ仕事が出来ない人だったんだ」
「えっ?」
「周りから白い目で見られたり、陰口叩かれたり」
「嘘。信じられない」
「だからね、最初は怖かったのよ。また覚えられなかったらどうしようって。でもね、清美ちゃんの教え方が上手くてさ、わからないところも先回りでこういう事があるけどここはこうしたらいいよってアドバイスしてくれたじゃん。だから凄く安心出来た」
そういえば、わたし、自分の失敗を思い出しながら、こういう事があるから用心して欲しいってところは助言出来たかもしれない。
自らの経験を元に、人には同じミスをして落ち込んで欲しくなくって、一生懸命教えたかもしれない。
そっか。
自分じゃ気が付いて無かったけど、わたし少しは役に立てたんだね。
「鶴田さん、ありがとう」
「お礼を言うのはわたしの方よ」
「ううん。わたし、他の人からあんまり褒められた事が無かったから、いろんな事において自信を持てなかった。でもね、こうして鶴田さんに教えて、感謝されてすごく励みになった」
「清美ちゃん、俺も感謝してる。気力を無くして本来の自分じゃ無くなってた俺を元に戻してくれてありがとな」
「林田くん……」
涙が出て来た。
嬉しい。
「おい、泣くなよ。何ならほら、胸貸すぜ」
「結構です!」
うなだれる林田くん。
その姿を見たら、思わず笑ってしまう。
「何だよ。泣いたり笑ったり、お前忙しいな」
「そうよ。わたしは忙しいのよ」
人生を終わらせようとした過去の自分。
そこで歩みを止めていた分、これからはどんどん前に進んで行こうと決めた。