If・・・~もしもあの時死んでいたら~
初めてのキス
次の朝。
「純平! 何で娘の部屋で寝ている!」
お父さんの大きな声で飛び起きた彼。
髪の毛にいっぱい寝癖を付けている。
「す、すみません!」
「ちょっとお父さん、お父さんが言ったんでしょ。どうせ結婚するんだ。一緒の部屋で寝なさいって」
「そんな事、言っとらん!」
「お父さん、言いましたよ。わたしもはっきり聞きました」
お母さんの助け舟。
お母さんが嘘をつかない事を知っているお父さんは、そのまましゅんとなってしまった。
「何でそんな事を言ったかな~純平」
「はい……」
「娘に手を出してないだろうな?」
「何もしていませんよ。お父さんに起こされるまで一度も目を覚ましたりしてません」
「そうか。だったらいい。すまん。怒鳴ったりして」
「いえ。いいんです」
「ところでお父さん、さっきからどうして彼を呼び捨てするわけ?」
「いいじゃないか。もう息子も同然なんだから。わたしは昔から息子が欲しかったんだよ」
「僕も父親が欲しかったんです」
「ほう」
「実は、父は僕が小学校に入る前に交通事故で亡くなりました。母は再婚もせず女手ひとつで俺と弟を育ててくれました」
「えっ?」
「ごめん。清美にはまだ話して無かったね」
知らなかった。
お父さんが亡くなってる事。
ご両親にご挨拶って思っていたのに、お母さんしかいないんだね。
「弟さんもいるのか」
「弟は僕よりも先に結婚して、現在アメリカで暮らしています」
「そうか。だったら今はお母さんと二人で?」
「いえ、母とは別々に暮らしています。と言っても、車で十分程度の距離なんですが」
「ほう。どうかね、今度お母さんも交えて、みんなで食事でも」
「そうですね。伝えておきます」
お父さんは、すっかり彼の事が気に入ったようだ。
良かった。
二人が仲良しだと、わたしも嬉しい。
それから、夜が来るまで家で一緒に過ごした。
本当は、彼と二人で過ごしたかったけど、何かと両親が絡んで来た。
今までずっと暗黒の中にいたわたしが、彼を見て笑っている姿を心から喜んでいるようだった。
夕食を一緒に済ませた後、帰るという彼を送って家の前の空き地に行った。
その端に、彼の車が停めてある。
「もう少し話そうか」
彼に誘われ、助手席に乗り込む。
運転席に座った彼から手を握られた。
「離れたくないな」
「だったらもう一晩泊まってく?」
「いやいや、それはまずいでしょ。明日仕事だし」
「そうよね。でも、わたしも離れたくない」
「何だか驚きだな。ずっと僕を拒んでいた君が、こんなに心を許してくれたなんて」
「わたし、本当に幸せになってもいいのかな?」
「いいに決まっているだろ。辛い目に遭ったんだ。誰よりも幸せになっていいさ」
「ありがとう」
「清美、愛してる」
彼の顔が近づいて来た。
これって……
彼の柔らかい唇が触れる。
最初はちょこっと。
一度離れて、今度はぎゅっと。
体に電気が走ったような気がした。
全身が痺れる。
息が出来ない。
ど、どうしよう。
ぷはっ
彼を押しのけ、わたしは思いっきり息を吸った。
「ごめん。まだ早かったかな?」
「いつ息をしたらいいのかわからなくて……」
それを聞いた彼が吹き出す。
「かわいい」
そう言うと、再びわたしの唇は奪われた。
今度は、ちゃんと息が出来るように短めのキスだった。
「このまま連れ去りたい」
「それは無理です」
「明日、仕事が終わったら俺んちに来い」
「椎名さん……」
「その呼び方禁止。これからは純平って呼んで」
「そんな事言っても、年上の人を呼び捨てになんて出来ないよ」
「いいから。呼んで」
「出来ない」
「だったらこのまま連れ去るよ」
「ダメだってば」
もお。椎名さんの意地悪。
純平……
いや、無理無理無理。
恥ずかしくて言えないよ。
「さあ、言って」
「やだ」
「……ったく。まあいいさ。そのうち言ってくれれば。それじゃ、今日は帰るよ」
「うん」
「それじゃまた明日」
「うん」
「おやすみ、清美」
「おやすみなさい。……純平さん」
さん付けで言うのが精一杯だった。
それでも彼は嬉しそうに微笑むと、その場から静かに走り去った。
早く明日になりますように。
「純平! 何で娘の部屋で寝ている!」
お父さんの大きな声で飛び起きた彼。
髪の毛にいっぱい寝癖を付けている。
「す、すみません!」
「ちょっとお父さん、お父さんが言ったんでしょ。どうせ結婚するんだ。一緒の部屋で寝なさいって」
「そんな事、言っとらん!」
「お父さん、言いましたよ。わたしもはっきり聞きました」
お母さんの助け舟。
お母さんが嘘をつかない事を知っているお父さんは、そのまましゅんとなってしまった。
「何でそんな事を言ったかな~純平」
「はい……」
「娘に手を出してないだろうな?」
「何もしていませんよ。お父さんに起こされるまで一度も目を覚ましたりしてません」
「そうか。だったらいい。すまん。怒鳴ったりして」
「いえ。いいんです」
「ところでお父さん、さっきからどうして彼を呼び捨てするわけ?」
「いいじゃないか。もう息子も同然なんだから。わたしは昔から息子が欲しかったんだよ」
「僕も父親が欲しかったんです」
「ほう」
「実は、父は僕が小学校に入る前に交通事故で亡くなりました。母は再婚もせず女手ひとつで俺と弟を育ててくれました」
「えっ?」
「ごめん。清美にはまだ話して無かったね」
知らなかった。
お父さんが亡くなってる事。
ご両親にご挨拶って思っていたのに、お母さんしかいないんだね。
「弟さんもいるのか」
「弟は僕よりも先に結婚して、現在アメリカで暮らしています」
「そうか。だったら今はお母さんと二人で?」
「いえ、母とは別々に暮らしています。と言っても、車で十分程度の距離なんですが」
「ほう。どうかね、今度お母さんも交えて、みんなで食事でも」
「そうですね。伝えておきます」
お父さんは、すっかり彼の事が気に入ったようだ。
良かった。
二人が仲良しだと、わたしも嬉しい。
それから、夜が来るまで家で一緒に過ごした。
本当は、彼と二人で過ごしたかったけど、何かと両親が絡んで来た。
今までずっと暗黒の中にいたわたしが、彼を見て笑っている姿を心から喜んでいるようだった。
夕食を一緒に済ませた後、帰るという彼を送って家の前の空き地に行った。
その端に、彼の車が停めてある。
「もう少し話そうか」
彼に誘われ、助手席に乗り込む。
運転席に座った彼から手を握られた。
「離れたくないな」
「だったらもう一晩泊まってく?」
「いやいや、それはまずいでしょ。明日仕事だし」
「そうよね。でも、わたしも離れたくない」
「何だか驚きだな。ずっと僕を拒んでいた君が、こんなに心を許してくれたなんて」
「わたし、本当に幸せになってもいいのかな?」
「いいに決まっているだろ。辛い目に遭ったんだ。誰よりも幸せになっていいさ」
「ありがとう」
「清美、愛してる」
彼の顔が近づいて来た。
これって……
彼の柔らかい唇が触れる。
最初はちょこっと。
一度離れて、今度はぎゅっと。
体に電気が走ったような気がした。
全身が痺れる。
息が出来ない。
ど、どうしよう。
ぷはっ
彼を押しのけ、わたしは思いっきり息を吸った。
「ごめん。まだ早かったかな?」
「いつ息をしたらいいのかわからなくて……」
それを聞いた彼が吹き出す。
「かわいい」
そう言うと、再びわたしの唇は奪われた。
今度は、ちゃんと息が出来るように短めのキスだった。
「このまま連れ去りたい」
「それは無理です」
「明日、仕事が終わったら俺んちに来い」
「椎名さん……」
「その呼び方禁止。これからは純平って呼んで」
「そんな事言っても、年上の人を呼び捨てになんて出来ないよ」
「いいから。呼んで」
「出来ない」
「だったらこのまま連れ去るよ」
「ダメだってば」
もお。椎名さんの意地悪。
純平……
いや、無理無理無理。
恥ずかしくて言えないよ。
「さあ、言って」
「やだ」
「……ったく。まあいいさ。そのうち言ってくれれば。それじゃ、今日は帰るよ」
「うん」
「それじゃまた明日」
「うん」
「おやすみ、清美」
「おやすみなさい。……純平さん」
さん付けで言うのが精一杯だった。
それでも彼は嬉しそうに微笑むと、その場から静かに走り去った。
早く明日になりますように。