残念な上司に愛の恐竜料理を!
2杯目
たった一人の弟である公則は、姉思いの中学2年生で現在、思春期真っ只中。バレーボール部に所属し、キャプテンを努めるしっかり者である。坊主刈りの頭で、姉に似た草食系の瞳を持っている。
「姉ちゃん……父ちゃんが呼んでるぜ」
弟とは喧嘩をした記憶もない。姉を慕う彼は幼い頃から口答えもせず、常にリスペクトされてきた経緯がある。少し平常心を取り戻したセラミックは、被っていたブランケットを勢いよく取り払い、スローモーションのように空気を孕ませたのだ。
「よし! 大丈夫、大丈夫……」
セラミックは部屋のドアを開けて、弟に元気な表情を見せつけた。弟は少し周章狼狽したような態度だったが、伏し目がちな目配せにより、階下にいる父親の存在を語ったと思われる。
そんな公則の所在なげな身を包む上下は、シンプルな白シャツにトランクス。
唐突な告白となるが瀬良ファミリーはいわゆるパンツ一家なのだ。世間一般の認識から、パンツ一家と言われても何の事か皆目見当が付かないだろうが、要するに夏場は室内において下着のみで生活する裸族なのである。
他人の目が届かないのをいい事に、家庭内において父親や弟はTシャツにトランクスという部屋着で通している。さすがに母親とセラミックは下着のみと言う訳にはいかないが、それでもキャミソールに短パンといった薄着で暮らしているのだ。
瀬良ファミリーにおいて、これはごく日常的な光景なので誰一人として疑問に思っておらず、素肌丸出しのセラミックは母親を始めとして誰からも一切咎められない。彼女自身、子供の頃からずっとこの生活スタイルだったので瀬良ファミリーがかなり特殊な部類とも別段思わず、これが日本では当たり前の風景だとつい最近まで思っていたほどである。
英字プリントされた黄色のタンクトップに水着の上に穿くような、ゆるふわショートパンツの出で立ちで階段を降りていくと、リビングに新聞を読む父親の姿が目に入った。
当然のごとく薄いシャツに縞々トランクスの格好でソファにふんぞり返っている。まるでビーチリゾートでくつろぐ中年オヤジのようである。よくよく考えてみるとパンツ一丁で偉そうにしている姿は、冷静な目で見なくとも極めて間抜けそのものであった。