残念な上司に愛の恐竜料理を!
8杯目
洗面台に向かい、セラミックは自分の全身を鏡に写してみる。いつもと同じだ、風呂に入る前の下着姿……佳音と会う前に、せめて新しい上下に替えようか……よく見るとパンツに毛玉が……。
突如、玄関のインターホンが鳴りセラミックは我に返った。思っていたより少し早すぎると思いつつ、訪問者が誰なのかモニターで確認する。
「こんばんは~! 美久! 松上佳音が来ましたよぅ」
小さな画面上からでも分かる整った顔立ち……佳音がもう来た!
セラミックは誰もいないリビングで途方に暮れた。母親か弟に代理で迎えに出てもらう事もかなわない。当然父親も店舗の方で仕事の真っ最中だ。
「はーい! ちょっと待ってね、佳音!」
どうしよう、裸のままで出て行くべきか。言い訳を考える前に親友が来てしまった。とっさに服を着ようかと思ったが、タイミング悪く弟の公則が帰ってくる予感がする。
「ええい! 一瞬だから、もういいや。なんせ佳音なんだし……」
無人のリビングで独り言を漏らした。自分に言い聞かせるように、やや大声で。
すぐに玄関から呼び込んで、自分の部屋で話そう。彼女なら裸ギャグのように軽く笑い飛ばしてくれるはずだ。悪い冗談と思ってくれるか、パンツ一丁のそそっかしいセラミックとして間違いなく大ウケするだろう。うん、そうに決まってる!
入口の玄関まで急いだセラミックは、もう一度立ち止まった。どう行動すれば彼女を一番ビックリさせないか、自分に置き換えてシミュレーションしてみた。
親友の佳音を待たせないため、服を着る時間も惜しんで裸のまま飛び出した、あわてんぼうで、お茶目な美久ちゃん。その後二人で大笑い――の図式が最も無難で理想的な流れだろう。これで、おそらく大丈夫だ……多分。
「は~い! 佳音、いらっしゃ~い! ごめん、ごめん。今取り込み中で、まだ服着てないんだな~これが。あははっ!」
あえて物陰に隠れたりせず、ドアの鍵を開け堂々と佳音を迎え入れた。親友の方へと振り返り、仁王立ちのごとく両手を腰に当てるポーズで朗らかに笑った。
「――!! 美久! ……何やってんのよ!」
両手で口を覆った佳音は、驚きのあまり声も出ない。……これは予想外のまずいリアクションだ。
「お、お久しぶり……かな? 瀬良美久さん。……あ~、この度は誠に申し訳なく、え~と、不測の事態のお詫びに……」
制服姿である佳音の隣から聞き覚えのある男性の声がした。
セラミックの中で何かが壊れる音がする。それはまるでガラス細工でできた豚骨ラーメンの替え玉が、ザルから地面に落ちて粉々に砕け散るような切ない破裂音。
その場の空気が一瞬にして南極か北極点のように凍り付いた。
スローモーション的な時間の流れの中で、残念ながら佳音の方は渾身のギャグと受け止めて大笑いなんかしていない。
恐る恐る親友の隣に立つ人物の方へと視線を移した。
細身のスーツを着こなす眼鏡の男性は、紛れもなく佳音の兄。つまり松上晴人その人だった。努めて無表情を装ってはいるが、湧き起こる苦笑いで動揺を誤魔化しきれていない。
セラミックは刹那に事態が飲み込めず、唖然としたままだ。そして震えながら再び自分の身体の方をまじまじと見た。ブラジャー丸出し。白いショーツ丸出し。しかも学校から帰ってきてシャワーも浴びていないような、ありのままの姿だ。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああ――!!」
突如、玄関のインターホンが鳴りセラミックは我に返った。思っていたより少し早すぎると思いつつ、訪問者が誰なのかモニターで確認する。
「こんばんは~! 美久! 松上佳音が来ましたよぅ」
小さな画面上からでも分かる整った顔立ち……佳音がもう来た!
セラミックは誰もいないリビングで途方に暮れた。母親か弟に代理で迎えに出てもらう事もかなわない。当然父親も店舗の方で仕事の真っ最中だ。
「はーい! ちょっと待ってね、佳音!」
どうしよう、裸のままで出て行くべきか。言い訳を考える前に親友が来てしまった。とっさに服を着ようかと思ったが、タイミング悪く弟の公則が帰ってくる予感がする。
「ええい! 一瞬だから、もういいや。なんせ佳音なんだし……」
無人のリビングで独り言を漏らした。自分に言い聞かせるように、やや大声で。
すぐに玄関から呼び込んで、自分の部屋で話そう。彼女なら裸ギャグのように軽く笑い飛ばしてくれるはずだ。悪い冗談と思ってくれるか、パンツ一丁のそそっかしいセラミックとして間違いなく大ウケするだろう。うん、そうに決まってる!
入口の玄関まで急いだセラミックは、もう一度立ち止まった。どう行動すれば彼女を一番ビックリさせないか、自分に置き換えてシミュレーションしてみた。
親友の佳音を待たせないため、服を着る時間も惜しんで裸のまま飛び出した、あわてんぼうで、お茶目な美久ちゃん。その後二人で大笑い――の図式が最も無難で理想的な流れだろう。これで、おそらく大丈夫だ……多分。
「は~い! 佳音、いらっしゃ~い! ごめん、ごめん。今取り込み中で、まだ服着てないんだな~これが。あははっ!」
あえて物陰に隠れたりせず、ドアの鍵を開け堂々と佳音を迎え入れた。親友の方へと振り返り、仁王立ちのごとく両手を腰に当てるポーズで朗らかに笑った。
「――!! 美久! ……何やってんのよ!」
両手で口を覆った佳音は、驚きのあまり声も出ない。……これは予想外のまずいリアクションだ。
「お、お久しぶり……かな? 瀬良美久さん。……あ~、この度は誠に申し訳なく、え~と、不測の事態のお詫びに……」
制服姿である佳音の隣から聞き覚えのある男性の声がした。
セラミックの中で何かが壊れる音がする。それはまるでガラス細工でできた豚骨ラーメンの替え玉が、ザルから地面に落ちて粉々に砕け散るような切ない破裂音。
その場の空気が一瞬にして南極か北極点のように凍り付いた。
スローモーション的な時間の流れの中で、残念ながら佳音の方は渾身のギャグと受け止めて大笑いなんかしていない。
恐る恐る親友の隣に立つ人物の方へと視線を移した。
細身のスーツを着こなす眼鏡の男性は、紛れもなく佳音の兄。つまり松上晴人その人だった。努めて無表情を装ってはいるが、湧き起こる苦笑いで動揺を誤魔化しきれていない。
セラミックは刹那に事態が飲み込めず、唖然としたままだ。そして震えながら再び自分の身体の方をまじまじと見た。ブラジャー丸出し。白いショーツ丸出し。しかも学校から帰ってきてシャワーも浴びていないような、ありのままの姿だ。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああ――!!」