残念な上司に愛の恐竜料理を!
エピソード4 恐竜ステーキ
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エピソード4 恐竜ステーキ
盛夏の鹿命館大学のキャンパスは、容赦のない太陽光を遮る物も少なく、蝉の鳴き声が悲鳴にも似て不快指数をアップさせてゆく。そんな外気状況下でも大学院の施設内に一歩でも入れば、空調の効いた快適な生活空間が広がっており、それは人類の生物としての活動適応気温の幅狭さを物語るのだ。
草木生い茂る丘陵地帯にある大学院の一区画。白衣姿の松上晴人は、調査捕竜・βチームの面々を自然科学研究科の会議室に集合させている。
珍しく薄い色のシャツワンピースを着たセラミックは、紙カップの氷がちになったアイスコーヒーに刺さったストローをがらがら回しながら言う。
「松上さん。今日、来られる予定の方は、まだなんですかね?」
βチームの正規メンバーの1人、中山健一が中国遼寧省の海外出張から戻ってくる。彼は凄腕の恐竜ハンターで、プロとしては研究員である松上以上の腕前だそうだ。セラミックが加入する前のβチームにおいては、主力的な位置付けで活躍し、張り切りすぎた余りか負傷してしまい、今回療養も兼ねた長期出張となったようである。
「皆、待たせて済まない。丁度、今しがた、ここに着いたようだ」
スマホ片手に松上が、申し訳なさそうな表情で吉田真美に視線を配る。彼女は夏らしい色合いのパンツルックで足を組み、リラックスしながら座っている。
真美さんは『いつものことだ』と言わんばかりに余裕な態度で、文庫本の文字列を数行に渡って速読している最中だ。
事前に伺った話や真美さんの態度から中山健一が、どのような人物なのかはイメージしにくい。何せ写真すら見せられた事もなかったので、セラミックは彼の事を筋肉質で山のような大男に想像した。プロの恐竜ハンターで一流の仕事人ともなれば、レスラーのような髭面の男であるはずだ、と勝手に決めつけるしかない。
「あら~、ずいぶんと待たせちゃって、ごめんなさいね~! これはお詫びの印。アイス買ってきたから、皆で食べてねぇ!」
会議室のドアを勢いよく開けて入ってきたのは、女口調の小柄な男性? 身長もさる事ながら、長髪で中性的な美しい顔立ちは、まるで少女漫画に出てくるキャラクターのよう。
ぽかんと口を開けたままのセラミックに向かって、(Tシャツにジーンズ)はその小顔を近付けてきた。ヤバい、人懐っこい笑顔が可愛すぎる。初対面にも関わらず物怖じしない態度は、グローバルに活動している証なのか?!
「あなたがセラミックさんね! 松上から話は、かねがね聞いているわよ。噂通りの若くてカワイイ子ね~。松上がいかにも好きそうなタイプで、私も気に入っちゃったわぁ」
可愛い人からカワイイと言われた。セラミックはまんざらでもなかったが、所々に引っ掛かる。
松上は軽く咳払いして紹介前の人物に対し、落ち着いて黙るように言い渡した。……もう手遅れだ。第一印象は決定的となり、どう考えても面白い人に違いない。
「君は相変わらずだな。え~、昨日かな? 日本に無事、帰国した中山健一君だ。この中でセラミックは初顔合わせとなるはずだから、お互いに宜しく頼むよ。これからβチームの正式メンバーとして復帰する予定なので、以前にも増して頑張るように。簡単になりましたが、リーダーからは以上……です」
セラミックと吉田真美から拍手が捧げられた。中山健一は嬉しそうに松上に握手を求めているが、何だか松上の方が照れている。さっきと同じようなノリで、ご無沙汰だった会話を始めたのだ。
真美さんは真面目な顔のまま、小声でセラミックに伝えた。
「フッ、また恋のライバル出現か。あんたも大変だねェ、うかうかしてらんないよ~、セラミック」
「ええ?! 何を言ってるんですか真美さん」
「またまた~、端から見てるとバレバレだよ。……全く、あんな暗い男のどこがいいんだか知らないけど。彼、中山健一君は松上晴人君の事が大好きなんだよ、男同士なのにね」
「……えええ~!」
セラミックは口に含んだ氷を一粒、床に転がした。