誰かのためにこの恋をしたわけじゃない
北風が吹く。
私はポケットに両手を突っ込んで首をすくめる。

目の前を歩く人の背中を見つめながら、こんな時、恋人は手を繋ぐものなのかなと考えて苦笑する。
もし、そうだったとしても私たちはその答えを知らずに終わる。

私たちの恋は、ここまで。

きっと口を開けば、さよなら。
そんな予感が、私の唇を鉛のように重くする。
彼の背中も冷たく閉ざしたように感じさせる。

「二人でいると黙っていても心地いいね」だなんて笑っていた頃が果てしなく遠い。
今そこには重苦しくて仕方ない沈黙が転がっているだけだ。

整備されていないアスファルトの小路を踏みしめながら、私は彼の背中を見つめる。
彼の足が最寄りの駅に向かっていることは、慣れ親しんだ景色で分かる。
そして、もうこの景色を見ることはないだろう。

好きだなんて言わなければよかった。

ただの友達として笑い合っていた日々が愛しくなる。
いっそ好意もないままにお互いを大切にできていた日々に戻りたい。

忙しさとか将来とか距離とか、全て考えずにいられる関係なら、私たちはずっとずっと繋がっていられたのに。
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