エリート弁護士は独占愛を刻み込む
目の前には四十代くらいの黒のハーフコートを着た細身のサラリーマン。
『三万円……?』
力ない口調で男性の言葉を呟き返す私。
なんのことなのかわからなかった。
考える気力さえなかったのかもしれない。
手に持っているのは大きな紙袋。
その中には会社に置いておいたブランケットや置き傘、文房具などの私物が入っている。
私が勤務していたのは、日本でも三本の指に入る電気機器メーカー、『丸岩』だった。
解雇通告をまだ受け入れられず放心状態の私。
『だから、三万でいいだろ?ほら、行くぞ』
急に手を掴まれてようやくその男性と目を合わせた。
『行くって……どこに?』
虚ろな目で聞き返せば、男性は苛立たしげに言った。
『ホテルに決まってるだろ!』
『ホテル……』
その言葉でようやく自分が買われそうになっていることに気づいた。
普段の自分なら男の手を振り払い、激しく抵抗していただろう。
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