エリート弁護士は独占愛を刻み込む
なぜこんな話を彼にしているのだろう。
他人だから……かな?
群馬にいる両親には、会社を辞めさせられたなんて絶対に言えない。
東京の大きな会社で働くのが夢で上京したのに、仕事も住むところも失ったのだ。
これからどうしていいのか。
じっと地面を見つめていると、恭吾さんの視線を感じた。
『本気で言ってるのか?』
彼にそう問われたが無視した。
答える気力もない。
寮に帰りたくなくて駅とは反対方向に向かおうとしたら、彼に腕を掴まれて……。
『ちょっと待った。そっちは歓楽街だよ』
『……別にどこでもいい』
なぜこの人は私にこんなに構うのだろう。
『放っておいて。もう子供じゃないし、大丈夫だから』
恭吾さんの手を外そうとしたら、彼が身を屈めて私の頰に触れてきた。
『だったらなぜ泣く?』
彼の言葉に驚いて顔を上げる。
『泣く?』
恭吾さんの顔を見ようとしても、視界がぼやけてはっきり見えない。
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