エリート弁護士は独占愛を刻み込む
その原因は涙。
ああ、涙のせいでよく見えないんだ。
『泣いているのも気づかないなんて馬鹿だな』
彼は呆れたような口調で言って、私の頭を掴んでその逞しい胸に引き寄せる。
……温かい。
そう思うと同時に涙が溢れてきて止まらなくなった。
『ずっと……頑張ってきたのに……。私はなにも悪くないのに……。なのに……辞めさせられるなんて悔しい。……悔しいよ』
しゃくり上げながら会ったばかりの彼に怒りをぶつけた。
激情が抑えられない。
彼の温もりに少しホッとしたからかもしれない。
恭吾さんにしてみれば、親切心で助けた女に責められ、面白くなかったと思う。
だけど、彼は文句も言わず、ただ黙って私に胸を貸してくれた。
しばらく泣いて私が落ち着くと、彼は私に告げた。
『俺が仕事と住むところを与えてあげるよ。だから、もう泣くな』
それが彼との出会い。
そして私は今、ここにいる。
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