エリート弁護士は独占愛を刻み込む
「あら、誰かと思ったら朝比奈さんじゃないの?まだ東京にいたのね。てっきり群馬の実家にでも逃げ帰ったかと思ったわ、泥棒さん」
ハハッと高笑いする彼女の声を聞いて耳鳴りがして、身体が震え出した。
「私は……私はあなたの財布なんか盗んでない」
喉の奥から声を絞り出して言い返す私を見て彼女はフンと鼻を鳴らす。
「この期に及んで何を言ってるのかしら?秘書室のみんなが私の財布があなたのバッグの中にあるのを見たのよ。嘘をつくなんて見苦しい。私が警察に届けていたら、あなた、逮捕されていたんじゃないかしら?」
その発言にカッとなって声を荒らげる。
「私は盗んでなんかいないわ!」
周りに人がいるとか頭になかった。
私の視界には天宮さんしか映っていなかったのだ。
だが、カフェの方から恭吾さんの声が聞こえてハッとした。
「葵?どうしたの?」
声の方に目を向ければ恭吾さんが数メートル先にいた。
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