エリート弁護士は独占愛を刻み込む
男を見据えてそう警告する。
中年男も俺の威圧的な態度を見てマズイと感じたのだろう。
『いや、私は何も……』と小声で呟き、俺と葵の前から逃げるように去って行った。
時刻は午後十一時過ぎ。
女の子がひとりでいるのは危ない時間帯。
『あの男も悪いが、君ももっと抵抗しないと。ホテルに連れ込まれるよ』
葵に注意したら、無機質な声が返ってきた。
『……それでよかったのに』
彼女の返答に一瞬耳を疑った。
『は?』
なにを言っている?
自分が恋人でもない男に抱かれても平気だと?
彼女の神経が信じられなかった。
そんな彼女の口から言葉が紡ぎ出される。
『今日突然会社を辞めさせられて……寮も出て行かなきゃいけないし、もう……どうなってもよかった』
ああ……この子は自暴自棄になっているんだな。
『本気で言ってるのか?』
葵の反応を確かめるためにそう尋ねれば、彼女は俺を無視して夢遊病者のように虚ろな目で歩き出す。
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