Dangerous boy
環奈から、嗚咽が漏れる。

「ちゃんと、忘れるから。諦めるから。それまで、尚太の事好きでいい?」

「うん、いいよ。」

尚太君はそう言うと、環奈の両手を顔から離して、涙を拭った。

その行為に、私の胸に、何かが突き刺さる。


本当に、付き合ってなかったんだよね。

なのに、何でそんな事するの?

二人は、言いたい事言い合っているのに、肝心の私は、言いたい事も言えない。


「有難う、尚太。」

「うん。それじゃあ、元気で。」

尚太君は手を放すと、そのまま階段のところへ向かった。

途中で、私の方を見ていたけれど、わざと目を合わせなかった。


「心も、こんな事させて、ごめんね。」

「ううん。」

私は、環奈を抱きしめた。

「本当に馬鹿だよね、私。あんな事言われても、嫌いになれないなんて。」

「そんな事……ないよ。」

私は、環奈を抱きしめる振りして、自分を抱きしめていた。
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