完璧美女の欠けてるパーツ
20階にある小さなロビーで、梨乃は彼と横並びになってコンビニコーヒーを飲み直していた。
ちょっとサボりになってしまうけど、急ぎの仕事もないしたまにいいだろう。
大きな窓から見える冬の空は青く、穏やかな雲がゆっくり流れている。
「ごちそうさまです」
互いに自分の名前を名乗り、梨乃はあらためて鈴木大志に礼を言うと、鈴木は顔を赤くして「とんでもない」と裏返った声を出す。
メガネ男子の鈴木は20階にある税理士事務所で働いていた。雇い主の先生にコンビニまでおつかいに行かされ、その途中で顧客に伝える内容を思い出し、忘れないうちに一心不乱でスマホに書き込んでいたら梨乃に衝突したらしい。
鈴木は梨乃を小さなソファに座らせ、猛ダッシュで自分のタオルハンカチを濡らして梨乃に渡し、梨乃がスカートをパンパンとハンカチで叩いている間にコンビニコーヒーをふたつ買って来てくれた。
「画面割れましたね」
申し訳ない声を出して梨乃は言う。
「気にしないで下さい。僕が全部悪いんです。それにそろそろ買い替えかなって思ってたので、本当に気にしないで下さい」
大きなため息をする鈴木だった。
「でも、ごめんなさい」
「要するに、落ち着きがないんですよね。今も落ち着いてないです」
鈴木はうつむいて苦笑いする。
白ワイシャツの袖をめくり、ネクタイを緩ませタイピンで止めるのではなく、下半分を胸ポケットに入れていた。髪はツーブロックで清潔感があり、顔は優しくメガネの奥は可愛らしい目をしてたが、めくられた腕は筋肉質で浮き出た血管が男らしかった。
「毎日が忙しくて、つい夢中になってしまうとダメですね、落ち込んでばかりです」
梨乃の周りの男性はいつも自信に満ち溢れているタイプが多いので、鈴木はある意味、梨乃にとって珍しく新鮮だった。
「私もそうですよ」
元気になってもらおうと、そう言うと鈴木は嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
あ、笑うと可愛らしい。
会ったばかりだけど、なんだかほのぼのする。
縁側でお茶を飲んでるおじいさんとおばあさん気分だった。