完璧美女の欠けてるパーツ
「森田さんは優しいですね」
「ありがとうございます。でも欠陥だらけの人間です」
欠陥だらけというのか
未経験の人間です。
「そんな事ありません!」
必死になって否定する姿がおかしくて、梨乃はまた吹き出してしまう。
真面目なのが伝わる分、どこか愛らしい。
それから5分ほど世間話などしていると「鈴木?」と背中から声がかかり、梨乃も一緒に振り返れば背の高いイケメンが驚いた顔でふたりを見下ろしていた。
「先生が捜してたぞ……って、28階の梨乃さん?高嶺の梨乃さん?うわぁマジか。本物とこんな近くで会えるなんて最高、どうして鈴木と?」
目を輝かせて興奮した声を出すので、さっきまでのほのぼのとしたバーチャル縁側が崩れ去る。
「すいません。お仕事の邪魔しました。私も戻ります、スマホは本当にごめんなさい、ごちそうさまでした」
面倒な三人での会話になりそうなので、そそくさと梨乃は立ち上がり、鈴木に頭を下げて梨乃はその場から逃げ出した。
エレベーターに乗り、ボタンを押してから隅っこに頭をドンしてぶつける。
他の階でも噂になる『高嶺の梨乃さん』はクリスマスに落ち込み、男性経験のないモテない女です。高嶺の高山植物と化してエベレストに閉じこもりたいと、妙に落ち込んでタオルハンカチを強く握りしめる。
タオルハンカチ?
鈴木さんのハンカチ。地味な薄いグレーだけど、使いやすくて大きさも手ごろで実用的で……あったかい。鈴木さんみたいな人だなと、梨乃はひとりで微笑んだ。