完璧美女の欠けてるパーツ

「そして仕事をバリバリ頑張って、森田さん目指します!」
急に名前を呼ばれた梨乃は目を丸くする。

「梨乃さん目指して頑張ります。梨乃さん大好きですっ!」
いい感じに酔っぱらった後輩の告白に、梨乃は笑顔で応えて手を振ると、後輩もブンブンと大きく手を振って応えてくれた。あまり動くと二日酔いがひどくなるよと心配してしまう。

「私も梨乃さん目指したい!」
ふらつくゆっちゃんの隣でスッと席を立ち、もうひとりの女の子が宣言をする。すると、どんな感染なのか若い子達が次から次へと「私も」「私も」と立ち上がってしまう。

いや
これはダメです。この流れは嫌です。
「座って座って。私なんて目指しちゃダメ。もっと理想は高く……」

「梨乃さんだって高すぎる理想なんですよっ!私達頑張りますからっ!」
解放感アリアリの金曜の夜。
よくわからない団結をしながら後輩女子はまた別の話題で盛り上がり、梨乃はとりあえずホッとしてワインを口にすると、同じテーブルで座っている同期3人にニヤニヤされる。

「森田梨乃さんは完璧なのよ」
同期で一番の仲良しが梨乃に言う。

「完璧じゃないでしょう」

「よく言うよ!」「どの口が言う」「カンベンしてよ」
一気に返ってくる言葉たち。

「スタイル抜群。仕事も完璧。顔も完璧。気配り上手で上司に可愛がられ、後輩に慕われる高嶺の華」

「違う」
反論してもいつも通じない。

「そのくせ性格もいいし、欠点無しの完璧美人。あんた人間じゃないでしょう」
「人間は人間なんだよね、血液検査で貧血起こしたヤツだもん」

痛い所を突かれて梨乃は苦い顔をする。
そう、梨乃は痛みに弱い。
当然注射も嫌いで、会社で決められているインフルエンザの予防接種前日から胸が苦しくてどうにか避けられないものかずっと一日考えていた。
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