完璧美女の欠けてるパーツ
それから
色々と話が盛り上がり
終電の時間が近づいてきてふたりは慌てた。
先週の作戦会議は重い雰囲気で、ラストも大志が駅まで送って神妙な顔で終わったけれど、今日は先が見えたのか、前向きになって時間を忘れて楽しく過ごせた。
駅が遠くに見えた頃には、ふたりの足は早歩きから猛ダッシュに変わる。
「間に合わなかったらタクシーで僕が送ります」
「きっと大丈夫だと思います」
飲み過ぎたのか息が切れる。昔はもう少し走れたのに30の足音が近づくとダッシュはキツい。梨乃はうっすら汗などかきながら大志のスピードに合わせる。やっぱりタクシーにしようかなって思った時、スッと手が伸びてきて思わずその手をつかんだ。
あったかい大きな手。
「あと5分!」
「はい」
ぐいぐいと引っ張られて、梨乃は涙が出そうになる。
梨乃は昔、花火大会に行って父親と手を繋いだことを思い出していた。
温かい大きな手。
安心できる優しい手。
父親にやっと甘えることができた夜。
人混みが終わるとすぐ離されて悲しくなった夜。
駅に到着すると「間に合った」と、息を切らして大志は笑顔を見せた。
「早く改札に……どうしました?僕が引っ張って痛かった?」
梨乃の涙を見て大志はうろたえた。
「夜風が目に当たって、大丈夫です。ありがとう」
梨乃はそう言い残し、振り返らずに走って改札に向かった。振り返ったらまた泣いてしまいそうだった。
どうしたんだろう
なんだか切ない。
切なくて嬉しくて
やっぱり切ない。
大志の顔を思い浮かべ
梨乃は不思議な気持ちを感じていた。