完璧美女の欠けてるパーツ
背が高くてイケメンの部類に入るのではなかろうか。涼しげな顔は梨乃のタイプだった。
「これから予定ある?」
腕をつかんだまま男性はそう言った。
「ありません」
梨乃はそう言い彼の顔を見る。
運命?偶然の必然?
出会えてありがとうの奇跡?
次のセリフを待っていたら、いきなり駅員さんが現れた。
「ちょっとそこ、何してんの?」
胸板が厚くラグビー選手のような身体の大きな駅員さんに男はビクつく。
「何もしてません」
「こちらの女性が困ってるだろう!キャッチセールスか?」
「違います」
「早くうせろ!」
駅員さんのド迫力の声に負けて、イケメンさんは走って逃げて行ってしまった。
あぁ……今回もダメだった。
追いかけたい気持ちで泣きたかったけど、逆にニコニコ笑顔で駅員さんは梨乃の顔を見る。
「もう大丈夫ですよ。怖かったですね、私が駅の外まで見送ります」
駅員さんは真っ赤な顔でそう言って、紳士的に梨乃を駅の外まで送りタクシーに乗せてくれた。
いい人だ。
私はいい人たちに恵まれている。
いつもこんな感じで誘われる前に、誰かが守ってくれる。
でも
これじゃどうにもなりゃしない
タクシーの後部座席で梨乃は目を閉じて本気で思う。