完璧美女の欠けてるパーツ
土曜日。
どうしても急ぐ仕事があって、それを片付けてシネコン前に走って行くと、彼女は僕を待っていてくれた。白のムートンコートが可愛らしく、ゆるくアップにした髪もいつもの仕事ムードとは離れたように、綺麗な顔に似合っていた。
まっすぐ見つめる彼女の目がまぶしくて、僕はやっぱり視線を避けた。
映画は単調でつまらなかった。
今日の予定に合わせて、昨日の夜から残業が続き寝不足気味だった。
映画館は暗くて温かくて音楽が優しくて、寝るのに最高だったから、つい少しだけ目を閉じるともう開かなくなり、こればマズいと理解しても、本能には逆らえない。『寝てはいけない』と何度も心の中で大きな声を出しても、僕は誘惑に負けてしっかり寝込んでしまった。
どのくらい経ったのだろう
気付けば梨乃さんの寝息が聞こえた。
スースーと赤ちゃんのような可愛らしい寝息で、僕に寄り添い熟睡している。
いや、その前に僕の方が梨乃さんの肩にしっかり頭を乗せているから、僕の方が先に寝てしまったのか、その場で焦ってしまったけど、梨乃さんが僕に身体を預けて寝ている事実に甘く溶けてしまいそうになっていて、もう少し、あと少しだけこのままでいたい。
いつの間にか重なっている手を握り直し、僕は目を閉じる。
そして
僕らはシネコンのお姉さんにしっかり起こされてしまった。