完璧美女の欠けてるパーツ
いや
まてまてと梨乃は考える。
どうしよう……ではない。チャンスと思うのが正解だ。
俗にいう『釣れた』というモノだろう。
大志が頑張ってくれた結果だ。
「私でよければ」
梨乃は高崎に営業用の笑顔を見せる。
そして女子達に素早く『ゴメン』と声を消して謝ると、彼女たちから無言のガッツポーズで返事が返ってきた。梨乃は素直に最上階のホテルまで続く専用エレベーターにエスコートされて中に入る。
「すぐ返事をいただけて嬉しかったです」
エレベーターの中でそう言われてしまった。
そうか、素直に付いて行くのは軽率だったかもしれない。
ここはためらって、一度断った方がよかったのかな。
大志と相談してこれからの対策を練らなきゃと、うつむいて考えていると
「決断力が早い女性は魅力的です」
こちらの想いを見透かすように言われたのが少し怖かった。油断できない相手だと思った。
「懐石ランチですが、時間までには梨乃さんを会社にお返しします」
「ゆっくり味わえないのが残念です」
「では、近いうちにゆっくり食事しましょう」
そんな言葉がすぐ出るなんて、やっぱり油断できない。
『傾向と対策』ブツブツと頭の中で呟きながら、梨乃は微笑み高級ホテルの三ツ星レストランに案内され、品のある個室で高崎と向き合った。
するとすぐ和服を着た年配の女性が挨拶に来て、その後ろから黒い漆のお盆の上に、色とりどりの小鉢が並んでいる料理が運ばれてきた。全て手のひらの上にのるくらいの大きさであり、ひとつひとつが品が良く、食材の美しさが生きていた。
「食べながらお話しましょう」
「はい。いただきます」
素直にいただきましょう。これはランチといえども一万円前後はするだろう。まだ次々と運ばれてくる料理にためらいながら梨乃は箸を動かす。根菜の混ぜご飯がとても美味しく印象的で、水菓子はリンゴのシャーベットだった。
「美味しい」
「クールな人だと思ってたけど、梨乃さんは可愛らしい人ですね」
食事をしながら少し世間話を進めたせいか、ラストのコーヒーを飲む時間になると高崎はくつろいだ表情で梨乃を見ていた。
「余計好きになりましたよ」
しれっとそんな言葉を運ぶ彼は、女に慣れている危険人物だろう。