完璧美女の欠けてるパーツ
いつもの個室居酒屋で、梨乃は駆け込んできた大志の向かいの席で珍しく日本酒を飲んでいた。
「すいません。また遅刻です」
走ってきたのか髪が乱れている。大志は梨乃の日本酒を見て目を丸くした。
「こちらこそ忙しいのにいつもすいません。先にやってました」
このセリフは女子じゃなくて後輩男子のセリフだ。可愛くないなぁ。だから私はダメなのかと、ぼんやり梨乃は考える。
大志はいつものハイボールを頼み、とりあえず笑顔なき乾杯をした。
笑顔なき乾杯
ミッション終了で、笑顔でいっぱいの予定がお通夜のように暗かった。その理由は鈍い梨乃にはわからない。
「ヘリで夜景を観るってゴージャスですね」
大志に言われて梨乃はうなずく。
「そんなに見たくもないんですけど」
ブツブツ言いながらタコわさびをつまむ。おじさんモード全開だ。
「高崎さんはうちの事務所の女性にも人気です。ただ外側しか情報がないので、梨乃さんを大切にする良い方ならいいのですが」
「私はヤレたらいいんです」
「梨乃さん!」
「大志さんの説教も最後なので、今日はいっぱい聞きますよ」
もう会うこともない。
寂しさと今までの感謝と、よくわからない感情がいっぱいある。
違う……こんな話をしたいんじゃなくて、何か違う。
本人にとっては深刻で重大な悩みだけど、他からみればつまらない悩みで、鼻で笑われる問題だったけど、大志は真剣に受け止めて真剣に悩んで相談にのってくれた。
だから感謝の気持ちでいなければいけないのに
どうしてこんなに私は子供のようにグレているのか、心の奥底で泣きたくなっているのか梨乃はわからなかった。わかっているのかもしれないけれど、答を知りたくなかったのかもしれない。
だって目の前で
「よかったですね。安心です」と、大志は笑顔を見せているのだから。