完璧美女の欠けてるパーツ
乙女の元へ
【あの男はやめましょう】
そんなラインが大志から届いたのは、大志がボコボコにされた次の日の昼休みだった。
あの男とは目の前にいる高崎健人のことであろうかと、梨乃は眉間にシワを寄せて考える。
「急用でも?」
「いえ、大丈夫です」
梨乃はスマホを伏せて高崎に笑顔を見せた。
今日はビルの最上階でフレンチのランチをコースでごちそうになっていた。
「本当はワインが欲しいけど」
「ですね」
高崎に合わせて梨乃は微笑みながら、大志のラインの意味を早く知りたかった。
「下のテナントで不審者がいたようですね」
「みたいですね。テナント店の逆恨みとか」
刃物を持っていたけど、挙動不審で警備員に質問されて出さずに終わったらしい。
「変なのがいるので、梨乃さんも注意して下さい。そう言えば、僕も変なのに絡まれました」
「高崎さんが?」
「ええ、いきなりジムで友達と話をしていたら、知らない男が殴りかかってきて」
「えっ?いきなりですか」
「逆にやり込めて床に倒しました。しばらく痛むと思いますよ」
「高崎さんはケガは?」
「無事ですよ。あんなか弱い奴には負けません。殴られる理由もわかりませんが」
「怖いですね」
「なんでも、ここのビルの税理士事務所で働いている男です」
「えっ?」
梨乃の心拍数が上がる。
「一緒にいた男が『鈴木先生』とか言ってました。営業停止にもできたけど……梨乃さん?」
「すいません。急用ができて、ごちそうさまでした」
梨乃は高崎の話を最後まで聞かず、そこから飛び出してまっすぐ大志の職場に向かった。