甘味好き御曹司とお見合い結婚!?
そうして報告を済ませると、私はボナ・ペティを出て帰宅した。
その後姿を見ている常連さんには気づかずに……。
翌日、午前中の面会開始時間に病院に着き、病室を覗けば元気そうな様子の祖母が見えて安心した。
「お祖母ちゃん、具合はどう? 痛みとかはない?」
ベッド脇の椅子に座るなり聞き出す私に、祖母は笑いながら答える。
「とっても調子がいいよ。確かに手術跡は少し痛むけれど、我慢できないものじゃないしね。これなら早く家に帰れそうだよ」
元気そうな様子に、ホッとする私に祖母はからかい交じりの口調で言った。
「だって私、ひ孫見たいんだもの。夏乃の結婚式もしっかり見届けてから行かないと春香に怒られちゃうものね」
春香とは、私のお母さん。祖母にとっては大事な娘だった。
私の母と父はクリスマスのチキンとケーキを取りに行く途中で、珍しく降った雪に足を取られた対向車が突っ込んできた、そんな事故で無くなった。
その母が常々言っていたのが、私の結婚式は素敵なドレスを作って着せるんだということだった。
母は裁縫が得意で、小さいながらもオーダーメイドのドレスを作るデザイナーでパタンナーで縫製の下請けが間に合わないときなんて、自分で縫っていたりもした。
そんな母は日々は洋裁が専門だったにも関わらず、成人式には振袖も仕立て上げてくれていた。
そんな自分の特技で娘の成長を楽しみ喜んでいた人だった。
今も、我が家の一室にある母の作業部屋はそのままそっくり残っている。
私には、使いきれないミシンなどの道具たち。
それでも、母が愛用していたものは処分なんて出来なかった……。
遺品整理の時、生地などは同業の母の知り合いに譲ったりしたものの、ミシンやトルソーや大きな定規などはそのまま残っている。
遺品整理の時、母のデザインスケッチも作業部屋の棚にあり、そこには私の結婚式に向けたドレスのデザインも数点残っていた。
彼氏すらいない、現在の私にはまだまだそれが形になる機会はなさそうだが、いつか母のドレスを形にしてもらってそのドレスを着て結婚するのが夢ではある。