甘味好き御曹司とお見合い結婚!?

そうして家から三十分程の隣町の駅裏の住宅街の中に佇む大きめな白い一軒家にたどり着くと、車は止まって高峰さんにエスコートされておりた。

大きな看板みたいなものは無くって、表札にはcachetteと書かれていた。
なんて読むのだろう? じっと表札を見つめていたら、高峰さんが私の様子に気づいて教えてくれた。

「お店の名前cachette はフランス語で、日本語的には隠れ家って意味だよ」

なるほど、住宅街で違和感のないちょっと大きめのお家がフランス料理店だなんて気付かない。
この表札をみて、なんだろうと思うくらいだろう。まさに隠れ家だ。

「さ、行こうか」

スっと違和感なく手を繋がれて、私はお店の入口へと連れられて行った。

中に入ると、高い天井に柔らかな照明器具に木材の温かさをふんだんに取り入れた作りの家に、家具もそのテイストにあった物になっている。
優しい色合いで纏められた、落ち着く雰囲気のお店だった。

「高峰様、いらっしゃいませ。お席にご案内致します」

そうして案内されると、そこはしっかりとした個室で落ち着く静かな空間にホッとした。

「ここは完全個室のフレンチで一日十組限定なんだ。丁寧にもてなしたいから、それ以上は断るっていう話だよ」

そんなすごいお店、だいぶ前に予約しないと取れないんじゃと顔色変えていると、高峰さんはクスリと笑って言った。

「今回は父と母が予約していたんだが、父の急な海外出張で行けなくなったところを譲ってもらったんだ。夏乃ちゃんに美味しいもの食べさせてあげなさいってね」

「それでは、弥生さんは楽しみになさってたのに、残念ですよね……」

そう返す私に、高峰さんは首を振ってそうでは無いことを教えてくれた。

「むしろ母はお誘いの口実が出来たわね! しっかり頑張りなさいよ!ってかなり楽しそうに送り出されたよ」

うん、弥生さん気合い入れすぎではないかな? 良いのかなぁ、本当に私で。
こんなに大人で優しく良い人で、見た目も社会的地位もパーフェクト。
結婚したいって名乗り出る女性はきっと後を絶たないのに。
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