煙草未満。―唇を塞ぎたくて―
「せんせー!」
ベランダ。教師としてダメじゃないのか。煙草を咥え、グラウンドを眺めている。
「うるさ」
長い前髪が、眼鏡の銀縁フレームにちらちらとあたっていた。
「勝手に部室をつかうのが悪い」
「顧問だよ」
「部活やってなかったらダメでしょ」
演劇部。今日は部活動がない日だ。
「煙草に呼ばれたから来たんだ。俺のせいじゃない」
淡々と述べる、温度のない声。
斜め後ろからは、横顔ともなんとも言えない微妙な顔だけが、目に入る。心に入るかどうかは、別問題。
「……」
返す言葉もなくなって、じっとみつめた。
視線に気がついた先生は、眉根を寄せて「なんだよ」と、不機嫌をさらけ出した。
< 1 / 11 >