愛というもの~哀しみの中で~
手には買い物途中のカゴを持っていて、動こうとすると羊水が流れ出て来るのがわかった。
不安とパニックで頭が回らず立ち尽くしているところに、店員さんが心配して声をかけてくれた。

「あなた、顔色が悪いけど大丈夫?妊婦さんかしら?貧血かな?」

「あ、あの、まだなのに、破水して…どうしよう…動くと出て、赤ちゃん死んじゃう。」

私は店員さんに必死で伝えたいのに何を言っていいかわからずに思いついた言葉を発していた。
目からは涙が流れて、しっかりしないといけないのに怖くて足が震えた。

「破水したの?わかった。待ってて。」

そう言うと店員さんは急いで奥に入っていき、ビニールとタオルを敷いた車椅子を持ってきてくれた。

「とりあえず座りましょう。まだお腹小さいけど何ヶ月くらい?」

「お腹大きくなれなくて…10か月で…」

「えっ?そうなの?じゃあ慌てることないわよ。赤ちゃん動いてる?」

そう言われてお腹に手をやると、いつもより大人しいけど赤ちゃんは動いていた。

「動いてます。生きてる。良かった。」

「そう、じゃあ頑張らないとね!これからだよ、お産は。病院はどこ?」

「病院は前の大通り渡って、少し右に行ったところにある太田産婦人科です。」

「あらっ、じゃあこのまま車椅子で行きましょう。タクシー使う必要ないわね。店長には言ってあるから。」

そう言って店員さんは私に振動があまり伝わらないように慎重に車椅子を押してくれた。
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