愛というもの~哀しみの中で~
徐々に呼吸が落ち着いてくる。
やはり動悸だけは続いていて落ち着いてはくれなかった。

「どこに行っても大吾の生きてた跡があるのにどこに行っても大吾はいないの。」

「今アイツは茉莉さんの中にいる。」

「でも…でも…話すことも、触れることも出来ないの。会いたいのに、抱きしめて欲しいのに…」

私はいったいどれだけ涙を流せば枯れるのだろう?
一度流れ出した涙は止まることなく流れ続けた。
真さんはそんな私の腕を引くと優しく抱きしめてくれた。

「アイツもきっと茉莉さんがずっと泣いてたら哀しいと思う。今すぐにとは言わないがいつか立ち直って前を向いてほしい。きっとそのほうが大吾も安心する。」

私は力なく真さんに抱きしめられながら涙を流していた。
微かに足音が聞こえたと思ったら、ノックの音と同時に部屋のドアが開いた。

「昌か、おめでたいときに来てもらって悪かったな。女の子だって?おめでとう!」

「ありがとうございます。茉莉ちゃん…また過呼吸起こしたって聞いたけど?」

真さんに抱きしめられていた手が緩むと私は昌くんの方を向いた。
昌くんは私の頭を撫でると大吾の部屋を見渡した。

「ここに来るのもひさしぶりだなぁ。高校の時は暇さえあればどちらかの家にいたんだ。」

懐かしそうな顔で昌くんが話すその大吾は私の知らない大吾だ。
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