愛というもの~哀しみの中で~
「茉莉さんが謝ることはなにもないよ。」

「そうね、あなたが一番つらい時に私も大人げないことをしてしまって申し訳なかったわ。」

そう言って彼女は私に頭を下げる。
その姿を見て私はまた叫びだしそうなほど胸が苦しくなった。
謝らないといけないのは私なのに。目の前に現れてはいけなかったのに…。

「真さんから事情は聞いていたの。でもこの先私に彼のような理解のある男性と巡り合える可能性も低いからちょっと焦ってしまって…。本当にごめんなさいね。」

私は言葉が出ずに首を横に振るだけだった。
店員さんが彼女の注文を聞きに来てコーヒーを頼んでいた。

「そういえば、あなたもコーヒーで良かったの?若い子はもっと可愛い飲み物がお好きなんじゃない?」

「ハハハッ、可愛い飲み物って。茉莉さんは甘い飲み物はあまり飲まないよね?いつもブラックのコーヒーを飲んでるよ。」

真さんが私の代わりに答える。そのことで彼女を傷つけているとは思っていないようだった。
彼女も少し驚いた顔をしていたけれど、嫌な顔はしていなかった。
大人だから自分の感情を隠すのが上手なのだろう。だから真さんに気持ちが伝わっていないんだ。
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