きみは林檎の匂いがする。
19歳の美少年
彼に抱かれた翌日は、いつも雨だ。
ベッドで目覚めた私はカーテンの外から漏れる水音を聞きながら、彼がいた痕跡があるシーツを指でなぞる。
……一言ぐらい声をかけてくれたらよかったのに。
隣で寝ていたはずの彼の温もりは、もう残っていなかった。
彼と出逢ったのは今から五年前。私が24歳。彼が30歳の時にいわゆる街コンというもので知り合った。
席替えタイムで同じテーブルになり、お互いに友達に無理やり参加させられたことと、映画はひとりで見るものという考え方が同じなこともあって、私たちはその日に連絡先を交換した。
そこから友達関係を一年続け、なんとなくこの人なら心を許せるかもしれないと意識し、ふたりでごはんを食べにいく距離感になって、さらに一年。
『綾(あや)のことが誰よりも好きなので、俺と付き合ってください』
スカイツリーが見えるレストランで彼から告白された時は、もうそれは天にも昇るような気分で。もちろん私は『はい』と二つ返事でオッケーをした。
あれからもう三年。
……好きなんて、最後に言われたのはいつだっただろうか。
濃厚で濃密で、触れられるたびに大切にされてると思えたベッドの中でも、最近は流れ作業のように彼はそそくさと終わらせる。
『私のこと、ちゃんと好きでいてくれてる?』
『私との将来はどう考えているの?』
いつの間にか29歳を迎えてしまった私には、それらの言葉を聞く勇気はなくなっていた。
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