きみは林檎の匂いがする。


「零士くんは、将来なにになりたい人?」

「実は考えてないんです」

「でも起業してるから会社は作りたいんでしょう」

「うーん。将来の土台作りではあるけど、本当まだ全然考えてないです。でも自由でいたいなとは思ってます」

「自由?」

「あれしなきゃいけない。これしなきゃいけない。こうであるべきだ、みたいな考え方が嫌いなんで」

そう言われて不覚にもハッとした。


私はきっと自分の能力はこれくらいだろうと決めつけて、未経験者可の会社に入って、周りが次々と寿退社をしていくので、自分も結婚しなきゃと思ってた。

佑介が私との将来を考えなかったのは、男の人も好きになれるという理由だけじゃない。

周りがしてるから、結婚したい。

年齢も年齢だし、三年も付き合ってるし、そろそろでしょっていう、私のそうであるべきだって考え方を見透かされていた部分もあるのかもしれない。


「……零士くんは結婚願望ある?」

「ないですよ。俺、恋愛対象は男の人だし、この先同性婚が認められてもしないですよ。ってか、結婚しない人生もそんなに悪くないですよ。したからって幸せになれるとは限らないし」

「ふふ、はは」

「なんで笑うんですか?」

「いや、本当にその通りだなって」

幸せの形なんて、人それぞれだ。

それを彼氏の浮気相手である19歳の男の子から教えてもらうなんで、想像してなかった。

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